蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2020年7月10日

お前いらなくない? と中傷される中学生のクラブ内いじめ問題

「お前が何でJ下部行けたんだ」「お前いらなくない?」。小学生時代にJクラブの育成組織に所属していたけど上に上がれず、セレクションを受けて入ったチームでチームメイトから誹謗中傷を受けている。

中学生だから親がでしゃばるのもどうかと思うけど、相談させてほしい。とご連絡をいただきました。チームメイトからのいじめは、小学生年代でも心配な親御さんも多いことでしょう。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに、子どもを守るための3つのアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)


(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

<<試合が多いため毎週の遠征費が家計を圧迫。移籍させたい問題

 

<サッカーママからのご相談>

はじめまして。どうしようもなく悩みご相談いたします。

息子は中学一年生でサッカークラブチームに所属しています。小学校の頃は某Jクラブの育成組織に所属していましたが、進級できず。

セレクションを受け今のチームに所属しているのですが、体格もなく足の速さも遅い方で現チームで現チームでいじめ(誹謗中傷)に遭っているようなのです。

「お前が何でJ下部行けたんだ」とか「足遅いんだよ(笑)」「お前いらなくない?」など。

はじめは頑張って自習練したりしていましたが、最近は暴言が酷くなってきたようで、「サッカーをやめたい、つまらない」と夜な夜な枕を濡らしこらえています。

それでも最後には「やる」とは言いますが、明るかった笑顔は消え暗い表情の息子を見てるのもつらいです。

厳しいスポーツの世界だからコーチに相談するのも気が引けます。中学生なので親がでしゃばるのもどうかという気もあって。

こんなとき見守ることしかできないのでしょうか。

 

<島沢さんのアドバイス>

ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。

中学生男子が泣いてしまうのですから、おそらくチームメイトからの暴言はひどいのだろうと察します。そばで見ているお母さんも辛いですね。

とはいえメールだけで詳しいことはわからないので、あくまで推測の上でのお話であることを前提にお聞きください。

 

「いじめに負けるな、強くなれ」と命じるのではなく、「あなたは何も悪くない」と伝えて

メール文によると、息子さんはJクラブの育成組織出身者。それゆえに、そうではない中学生たちから少しばかり疎まれている。つまり、彼らにとってジェラシーの対象になっていることがよくわかります。息子さんが落ち込むのを見て、彼ら「非J育成組織組」は溜飲を下げるわけです。とてもばかばかしいし、スポーツマンシップに欠ける行為です。

いいですか? 悪いのは、完全にそのチームメイトたちです。

それなのに、親御さんの中には間違った行動をとる方もいらっしゃいます。
「厳しい世界なんだから耐えなきゃだめだ」
「おまえのほうが強くならなきゃ」
「言われるほうも問題がある」
「逃げたら負けだ」

いかがでしょうか? こういったアドバイスは、「いじめられている側の問題」にしてしまっています。

息子さんは何も悪くない。悪いのは誹謗中傷するチームメイト。ここを絶対にはき違えないこと。

これが私からのひとつめのアドバイスです。これがとても重要です。

それを誤って、「まだ中学生だから、そういうやつもいるよね」とか「試練だと思って乗り越えろ」などと軽い気持ちで言わないこと。思ってもいけません。もし、少しでもそう考えていたのなら、考え方を変えてください。

今の子どもたちは、自分を否定してくる言葉をストレートに受け止めがちです。

「ああ言ってるけど、軽い気持ちで言ってる」「暴言だけど、ただの嫉妬だ」そんなふうに逃がすのが苦手です。

苦手なことを「うまくやれ」と命じるのではなく、「あなたは何も悪くない」ときちんと伝えください。

例えば、お父さんや、ほかの兄弟姉妹。祖父母など、ほかの家族でそのような対応をされる方がいたら、息子さんの目の前でお母さんがそれをバッサリ否定してあげましょう。そうせずに、息子さんに「お父さんはこう言ってるけど......」などと、陰で言うような状況はダメです。夫に遠慮してはいけません。

 

■子どもをサポートする上で大事なのは「言う」より「聴く」

そして、二つめ。

親御さんがサポートするうえで大事なことは、息子さんの話に耳を傾け続けることです。お母さん自身もお仕事があったり、他にも兄弟姉妹がいてお忙しいかもしれませんが、彼が落ち着くまでは毎日でも話を聴いてあげてください。

子どもがいじめられたり、その身の上に何か困ったことが生じたとき、親御さんがそこにかかわって解決しようとする傾向があります。いわゆる「転ばぬ先の杖」ですね。以前も、この連載で「杖を用意してしまうと、自分の足で難題を乗り越える脚力がつきませんよ」と伝えているように、親が出しゃばってしまうと課題解決する力を育む機会をつぶすことになります。

したがって、まずは本人の話を聴いて、その辛さに一緒に向き合ってください。

「それはひどいね! ママなら、我慢できないかも」とか「許せないね」と息子さんのぶんまで怒ってあげてもいい。とにかく、本人の話を聴き続けましょう。

小学生に同様の問題が起きたり、いじめ以外でも子どもが悩みを抱えたときも、いつも同じアドバイスをしています。「言わなきゃ! より、聴かなきゃ! と考えていください」と。

お母さんも「コーチに相談するのも気が引けます」「中学生なので親がでしゃばるのもどうかという気もあって」と躊躇されていますね。

ただ、毎日「今日はどうだった?」というわざとらしい聴き方はいけません。
「サッカー、楽しかった?」
「いつでも話聞くからね」
「お母さんたちは君の味方だよ。楽しくサッカーしてほしいと思ってるよ」

そういったことを伝えながら、聴く耳を持っているということをアピールしましょう。

 

■逃げることは恥ではない。子ども自身が見出す「次の一手」を尊重しよう

そして、三つめ。

どこかのタイミングで「じゃあ、どうする?」と解決方法を尋ねてみてください。

もう中学生なので「いろいろ言うのはやめてほしいと勇気を出して言う」とか、「コーチに相談してみる」「他の自分を悪く言わない仲間に相談する」もしくは、「とにかく無視する」など、さまざま出てくるかと思います。

そうならず「わかんないよ」と沈んでいるようなら、「少しお休みしてみる?」とクラブと距離を置くことを提案してもいいかと思います。逃げることは恥ではありません。逆に「悪い仲間や環境からは逃げていいのだ」ということを伝えてください。

自分から「もうこのクラブを辞めたい」と言うかもしれません。もしくは、「もう少しやってみる」かもしれません。

そうやって、どんな答えが出たとしても、それを否定しないでください。すべての答えを「そうか、じゃあ、そうしてみるといいよ。自分で考えたようにやってみるといいよ」と受容してあげてください。

もし、それがお母さんの望む答えでなかったとしても、尊重してあげましょう。息子さんがこの、毎晩枕を濡らすような苦しみの中で見出した「次の一手」なのです。

そこをまず認めてあげてください。

 

 

次ページ:あまりに追いつめられると......

1  2

関連記事

関連記事一覧へ