蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2022年11月 9日
自信がなくいつも指示待ちの息子に積極的になってほしい問題
ほかの子は積極的にボールを蹴りに行くのに、息子は見ているだけ。失敗してもいいからチャレンジしてほしいのに、指示待ちなのが悲しい。
サッカー自体、子どもの運動能力を心配して親がやらせたので、そもそもやる気がないのはあると思うけど、指示待ちは何とかしたい。親が干渉しすぎたのが原因? というご相談をいただきました。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの子育てと取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<子どもについて悩み相談したらコーチにスルーされるように。尋ねちゃダメなの問題
<サッカーママからのご相談>
島沢さんこんにちは。
息子(7歳)はサッカーを習い始めて5か月くらいになります。
自信がないせいか、ボールを遠くで追いかけるだけで蹴りに行くことが少ないです。目の前にボールがきても、見ているだけで仲間が蹴るのを待つということもとても多いのです。
子どもに聞くと、コーチに「パスを待ち、他の子のシュートの邪魔をしないように離れて待つように」と言われたそうです。とはいえ、他の子はボールを取りに行くのに我が子は取りに行かないことにモヤモヤして......。
子どもにどう声かけてあげたら良いのでしょうか。もともと、本人はサッカーはそれほど好きではなく、親が子どもの運動能力を心配してやらせているため、そもそもやる気がないというのも一因だと思います。
ただ、少しでも前を向き、失敗していいからいっぱいボールを蹴りに行ってほしいと思ってます。
いつも待ってばかりの息子、自分で動こうとしない指示待ちに悲しくなってしまうのです。
親が干渉し過ぎゆえなのでしょうか。助言をいただけませんでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
お母さんがおっしゃっているように「そもそもやる気がない」のでしょう。息子さんが「お母さん、僕、サッカーしたい!」と目を輝かせて直訴して始めたわけではありません。まだサッカーの面白さに自分で気づいていないし、楽しさを味わってもいません。
もっといえば、果たして今の息子さんは、サッカーを好きになれる環境にいるのでしょうか? ここで、彼を取り巻くサッカー環境を、指導者(コーチ)と保護者といった2つの人的環境から考えてみましょう。
■ボールを取りにいかないのは、どう動けばいいかわからない可能性がある
まず、指導者です。
息子さんのコーチは「パスを待って、他の子のシュートの邪魔をしないように離れて待て」とおっしゃったようです。しかし、これがどんなシチュエーションで発せられたのかとか、この言葉通りなのかどうかも含めてわかりません。判断が難しいところです。攻撃の場面なので、全員がボールに集まらずもっと広がれという指示だった可能性もあります。
「他の子はボールを取りに行くのに我が子は取りに行かない」というのは守備なので、息子さんが積極的にボールを取りに行かないのは自分がどうしたらいいのか、まだわからないのかもしれません。
まだ小学1年生です。息子さんの言葉通りだと決めつけてしまうと誤解が生じるかもしれません。サッカーのピッチで行われることは、基本体にコーチと子どもに任せたほうがいいです。
子どもにとって、サッカーを好きになる気持ちが「成長のエンジン」です。接する人の言動や、その接し方に大きく影響されます。良い指導者と巡り合えば大きく伸びます。
逆に、暴力や暴言など不適切なコーチングをする人の下では、子どもは委縮してしまうのでミスを恐れず思い切ってチャレンジできません。加えて、同じ子どもばかりを試合に出して補欠の子どもたちは一切出られないといった理不尽な扱いだけ、親は注視すればよいかと思います。
■子どもがサッカーを好きになれるようサポートしているか
次に、保護者です。お母さんは、息子さんがサッカーを好きになれるようサポートしているでしょうか。他の子はボールを取りに行くのにわが子は取りに行かないことにモヤモヤして「なぜ取りに行かないのか」と責めていないでしょうか。
人の意欲「やる気」は、左右の大脳半球の下側にある「線条体」の働きが関係しています。ここの神経核が活発に動くと、人は意欲的になります。例えば、算数のテストをやる前に誉め言葉のシャワーを浴びたグループと、否定された子どもたちでは、前者のほうが成績が良かったという実験結果が出ています。
それとは逆に、誰かに否定されたり、怒られたりすると、線条体の動きは鈍くなります。私にこの仕組みを説明してくれた脳科学者は「線条体がスーッと止まってしまう」とおっしゃっていました。
大人が抑圧すればするほど、線条体の動きが鈍り脳は意欲的になりません。それどころか抑圧が繰り返されると、そのことがトラウマになりバーンアウトしやすくなるとも言われています。
■親に結果ばかり求められたサッカー少年の末路
ある小学生の男の子は、少し肥満気味だったので母親に勧められサッカーを始めました。最初は渋りましたが、同じ学童クラブの仲間たちが少年団に入ったので1年遅れて入団したのです。息子さんは技術が少し劣るものの、楽しくプレーしていました。仲間と一緒にボールを蹴って、コーチたちからも温かくサポートしてもらいチームに馴染んでいました。
3年生になるとチームも地区の大会で優勝するなど、少しずつ力をつけてきました。小学生は途中出場ながら、試合にも出て、公式戦でチームみんなが彼にボールを集めてくれて初ゴールも決めました。みんな大喜びしたそうです。
ところが、4年生になると、お母さんが彼にダメ出しをするようになりました。試合から戻ると「ゴール決めたの?」「何分試合に出たの?」と結果を尋ねるようになりました。試合を見に来ると「君だけ全然ダメだね」とため息をついたそうです。そのうち「今日ゴールを決めなかったら、サッカーをやめなさい」と言うようになりました。
その母さんは、息子に結果を求めたのです。サッカーを楽しんでほしいといった感覚ではなかったかも知れません。彼はディフェンダーなのでシュートをする機会は多くないのですが、そんなことも見えないほど盲目になっていたのでしょう。
男の子はサッカーをやめました。自分からやめたかたちですが、お母さんからのプレッシャーに耐えられなかったのだと思います。放課後は塾に行くくらいで何もせずゲーム三昧になりました。母子関係は悪くなり「もう死んでやる」と言って家を飛び出すこともあったそうです。