楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた
2019年12月26日
負けたら礼を尽くさなくていいの? 年末年始に親子で学んでほしいスポーツマンシップとは
サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。
聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。
高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。
日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。
根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)
■大人のアスリートや指導者がグッドルーザーになれていない
以前この連載で「負けたら泣くくらい悔しがれ」と伝えてはいけませんよ、という話をしました。大人がそんなふうに「悔しがる子ども」を求め、グッドルーザーであることを求めません。それは、自分たちがグッドルーザーでないからです。
2014年にはアイスホッケーの全日本選手権決勝で敗れた東北フリーブレイズの選手が、表彰式後に銀メダルをゴミ箱に捨てるなどした問題が起きました。16年には埼玉県の全国制覇をしたこともある私立高校ハンドボール部のベテラン監督が、県大会2位の賞状を選手の前で破り捨てています。
どのケースも大人のアスリートや指導者が、グッドルーザーになれない現状が浮き彫りになっています。それは3位以下のチームや選手に対する冒涜であり、世界には「ファイナリスト」という称号もあることを全く理解していません。したがって日本では、大人になっても負けを受け止められないアスリートがとても多いと感じます。
スポーツを離れた場所でも、人の真価が問われるのは、チャンスではなくピンチの時です。その意味で、少年サッカーや中高のサッカーチームでどんな指導が行われているかは、敗れたときにわかります。
まずコーチの態度。相手の選手があいさつに来た時、笑顔で握手して「ナイスプレー」などと健闘を讃えている大人がいれば、あいさつもせずにコートから離れたり、迎えても苦虫を嚙み潰したような表情で対応する人もいます。
そして、そのありようは、そのまま選手にも引き継がれます。ふてくされて握手をちゃんとしなかったり、泣きじゃくってしまってともに戦った相手に対する敬意を示すことができません。先日は、柔道で金メダルを期待されている選手が国内大会の決勝で敗れて泣きじゃくっていました。世界のトップで戦うのであれば、もっとスポーツマンシップを学んでほしいと切に思います。
■「礼儀を身につけさせたい」のに、礼を尽くさないわが子を見て平気な親たち
トップアスリートでさえグッドルーザーになれない日本の土壌は、スポーツについている「負けたら終わり」「試合に出られなくなったら終わり」という価値観に縛られているからだと考えます。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言われるように、敗戦には要因があります。そのことをしっかり受け止める「グッドルーザー」になることで子どもたちは成長します。そのためには、負けを受け止めなくてはいけない。スポーツを「楽しくプレーする」「人として成長する場である」という価値観をみんなで共有できていれば、バッドルーザーは生まれないはずです。
日本でスポーツをさせる親御さんたちに「なぜスポーツをさせているか?」と問うと、多くの人が「礼儀を身につけさせたい」と答えます。それなのに、負けたときに礼を尽くさないわが子を見ても平気です。なぜなら、自分たちも悔しくてたまらないからです。
「あの決勝ゴールはオフサイドだったのに」
「審判が下手だから負けた」
「相手のプレーが荒すぎる」
などと、負けた原因を追究しないベクトルに、大人が暴走しています。大人が選手をリスペクトしない国で、選手が相手に対し敬意を払う「グッドルーザー」になれるわけがありません。
それは、土台が脆弱な土地に、基礎をつくらないまま高層ビルを建てようとするのと同じことでしょう。
高校サッカーの全国選手権が30日、國學院久我山(東京B)対前原(沖縄)の試合で開幕します。選手権に、元旦の天皇杯決勝。師走からお正月にかけてサッカー観戦が楽しみな日が続きます。
そして、どれもノックアウトのトーナメント方式なので、勝者と敗者が生まれます。
少年サッカーの指導をするコーチや、子どもを応援する保護者のみなさんには、後者である「敗者」のありように注目していただきたいです。
■W杯戦士たちが見せた「子どもに真似してほしくない」振る舞い
2019年のスポーツシーンと言えば日本開催となったラグビーW杯ですが、残念なことにグッドルーザーでない様子も見受けられました。
決勝戦で世界ランク2位の南アフリカが32-12で同1位のイングランドを下し、史上最多タイ3度目の優勝を遂げました。ところが、試合後に行われた表彰式では、敗れたイングランドの一部選手によるメダル拒否や、首にかけてもらった直後に外すなど残念な行為が見受けられました。
これに異を唱えたのが、サッカー協会会長を務めたことのある川淵三郎さんでした。会場で観戦していた川淵さんは、こんな文面をSNSに投稿しました。
「ウーン、やっぱり僕の性格からして黙っていられない。いくら悔しいからって首にかけてもらった銀メダルを観衆の前で直ぐに外してポケットに入れるのはGOOD LOOSERのとるべき態度ではない。少なくとも日本の子供達に真似をして欲しくない」
LOSERの綴りを間違えたことはあとで謝罪していましたが、この投稿はとてもいいことだと思いました。
川淵さんは、協会の名誉会長を務めていたときのナビスコカップ決勝で、敗れた川崎フロンターレの選手たちが銀メダルを首から外した際もとても憤慨していました。
今回、「グッドルーザー」という言葉を発信したことで、多くの方に「良き敗者の態度」を考えてもらうきっかけになったと思います。