あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年10月20日
ひとりだけ際立って上手いが、横柄な態度の子。チームプレーヤーだと認識させる方法はある?
チームの中の際立って上手な子が、練習の準備をさぼったり、思い通りにいかないと拗ねてしまう。チームプレーヤーであり、自分だけが特別でないことを教えるにはどんな指導をすればいいのかご相談をいただきました。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんはどのようなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)
<<スペースを使う意識を高めたい。ボールがないときの動きを身につける練習はある?
<お父さんコーチからの質問>
U-10以下のチームを指導しています。
チームの中に一人だけ上手い子がおり、その子の言うことが絶対になりがちなのであえてその子に制限を付けてプレーさせるのですが、そうすると途端に並みのプレーヤーになります。
ドリブルが上手いだけで判断レベルは他と変わらないので、タッチ制限をつけたら途端に大人しくなるのです。
本人もそれがわかっており、タッチ制限がある時や、もともと子ども達の間では「上手い子」と認識されている存在なので練習の準備をサボってみたり、自分の思い通りにいかないと拗ねたりします。
個人的には一度スタメンを外したり、準備をサボった時に罰を与えて自分が特別なプレーヤーでは無い事を認識させたいのですが、どのような手順で行ってくのがいいのか試行錯誤中です。アドバイスいただければ幸いです。
<池上さんのアドバイス>
ご相談、ありがとうございます。
チームにひとりだけ際立って上手い子がいるという状況は、町のクラブや少年団にはよく見られます。そして、その子に対する指導者の接し方によって、その子自身もチームも一緒に成長できたり、逆にどちらも伸びなかったりするようです。
接し方の主な種類は、その子ひとりに頼り切ってしまう、逆にその子に対して特別厳しくしてしまう。もしくは、その子の技術を認めたうえで他の選手と同じように接する。そんなところでしょうか。
三つのなかで、全員一緒に成長できるのは、指導者がその子を認めて他の子どもたちと同じように接しているチームのようです。
小学生ですからテングになるのは仕方ありません。では、テングの鼻をへし折るのが大人の仕事かといえば、そうではありません。
その子自身が、自分から鼻を外してテングを辞めるよう導いてあげること。
その道筋をこれからお伝えします。
■自尊心を満たしつつ、1段上のレベルを求める
まずは一番上手なエースを認めてあげることが必要です。
「君、上手いね」「やるね」などとほめて、コーチは君を認めているよというメッセージを送ってあげてください。
その次に、「でもね」と諭すように話します。
「上手だから君はドリブルで抜けるかもしれない。でも、今はどう?味方がもっといい位置にいたよね?」
そんなふうに「味方を探して」「他の人を生かすプレーも覚えよう」と、もう1ランク上のレベルのプレーを要求します。
そして、しつこく言い続けてください。
「サッカーはチームでやるものだよ。それを絶対忘れないでね」
と同時に、こんなことも話します。
「君は今、ドリブルで相手を簡単に抜き去ることができるよね。でも、ダイレクトでパスを出してチャンスを作り出したり、スペースを探してそこに飛び込むのはどうかな?そういうことができると、君はこれから先どんな選手になるのかなぁ?」
そんなふうに伝えると、1ランク上のプレーに挑むモチベーションがより高まります。
■今やっている「制限」をやめ、他の子と同じに扱う
そうするためには、その子だけに何かをやらせることをやめましょう。
そもそも10歳以下ですから小学3年生や4年生くらいですね。それくらいの子どもにタッチを制限する練習は早すぎます。
また「個人的には一度スタメンを外したり、準備をサボった時に罰を与える」とありますが、そのような大人からの圧力は逆効果です。
何がマイナスかと言えば、ひとつはコーチへの信頼感を失います。
「僕だけ制限をつけられる」とか「僕はうまいのに、自由にやらせてもらえない。コーチに嫌われているのかもしれない」と感じるかもしれません。
もうひとつは、その子自身がサッカーを楽しいものだと感じられなくなります。
そうではなく、その子に自分の高い技術を他の仲間のために使うことを意識させてください。「君はそれだけできるんだから、他の子たちができるように手伝ってあげて」と話すのです。
加えて、拗ねた罰としてスタメンを外すということは、その子はいつもスタメンで出場時間も長いのでしょう。でも、みんなが順番に同じ時間だけプレーするようなシステムにすれば、その子がスタメンでないときも出てきます。ニュートラルに他の子どもと同じように扱ったほうがよいでしょう。