あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2018年7月27日

サッカー未経験コーチの悩み。 選手同士の声がけ(コーチング)を増やしたい!どうすればいい?

わが子がきっかけで指導を始めたサッカー未経験のお父さんコーチ。ライセンスを取ったり試行錯誤しながら指導しているけれど、選手同士の声かけが上手くいかない。声かけに慣れさせるメニューを実践したら、サッカーと関係ない話をするので周囲に笑われたり...。どうすればサッカーの内容で声かけできるようになる? とのご相談です。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが授けるコーチングを参考にしてみてください。(取材・文:島沢優子)

※写真はサカイクキャンプの写真です。 質問者及び質問内容とは関係ありません

<<ボールを奪いに行かない低学年。自分からボールを奪いに行けるようにするにはどんな練習をすればいい?

<お父さんコーチからの質問>

選手同士のコミュニケーションについて悩んでいます。

私は4種の地元少年団チームで指導者をしています。息子の入団と同時に誘われて指導者になり、息子の卒団後も指導者を続けています。今指導しているのはU-10年代です。

ただサッカー未経験なのでC級ライセンスを取ったり、3級審判を取ったりして日々勉強しながら指導をしていますが、試合中の選手同士による声がけやコミュニケーションの指導が上手く行きません。

声がけの大切さを伝えたり、練習やゲームの中で「いま声を掛けたら、仲間が助かったんじゃないかな?」と伝えてますが上手く行きません。

一応素人なりに考えて「ゲームの中に味方選手へ質問をする」という遊びを取り入れてみました。例えばゲームをしながら「〇〇! 昨日何食べた?」と聞いて、聞かれた選手は「昨日はハンバーグ」と答える...のようにサッカーと全然関係ない会話をさせて、自然に話せるようなメニューを考えて実践してみました。

結果、少しは試合中に話す事に抵抗が無くなり「こっち空いてる!」等の声は出るようになったんですが、今度は試合本番でその練習のクセが出て「何飲んだ?」と関係ない話をするので、周りから笑われたり......。

選手同士試合中に声をかけ合えるように何か良い方法はありますでしょうか?

色々考えて実践してみたのですが、何が良い指導なのか、今の方法で良いのかだんだん分からなくなってしまっています。

 

<池上さんのアドバイス>

ご相談、ありがとうございます。

選手同士の「声がけ」とは、試合のなかでのコーチングのことですね。これは「コーチングしよう」「声がけしろ」と大人が命じて大きく進歩するものではありません。

■まずは自発的に意見交換することを評価しよう

ひとつの例をお話しましょう。

先日、中学生の指導者講習会に呼んでいただき、レクチャーをしてきました。テーマは「自分で考える」。参加者は学校の先生たちです。

生徒たちの練習を見ながら、私は例によって質問をなげかけました。

「いま、上手くいかなかったけど、どうして?」

生徒は何も答えません。

「どう?いま、うまくいってる?」

やはり、何も言いません。黙っています。

そうすると、見守っている先生方がだんだんジリジリしてくる空気が伝わってきます。「おいおい、何か言ってよ」と願っていたことでしょう。先生方はそこで「しっかり答えろ」と言いたいところでしょうが、指導しているのは私なので、何も言わずに見てくださっていました。

しばらくすると、私や先生方がいた場所から少し遠いところにいた生徒が、二人で何事か話し合いを始めました。

「おっ、みなさん、あそこ見てください。彼ら、相談し始めましたね」

私が指摘したあとは、少しずつ生徒がそれぞれ話し合うようになりました。

生徒に「じゃあ、いまの、もう一回やってごらんよ」と促すと、相談し、工夫を加えてやり直します。すると、課題が解決されていたり、前のプレーよりもうまくいくことが徐々に増えてきました。

「みなさん。これが、自分で考えるということですよね」と先生方にお話ししました。

例えば、そこで生徒に「いまのは何をしゃべっていたの?」と尋ねても、思春期の中学生は何も答えません。でも、そこで「なんでそうなんだ! 説明しろ」と叱っても仕方がありません。大事なのは、自分たちから自発的に意見を交わすことです。そこを評価してほしいと思います。

■関係ない話をしてしまう子たちを変える方法

ご相談者様は、選手たちがピッチの上でしゃべることに注目していますが、コーチングは、ただしゃべっていればいいということではありません。その都度必要なコーチングを行うためにはサッカーを理解する力が必要です。つまり、どんなふうに攻めたり守ったりするのかを認知していないと、そのときどきで必要な声を出すことはなかなかできません。

「ゲームの中に味方選手へ質問をする」という遊びを取り入れているということですが、形から入ってしまったため、本当の解決になっていないように見受けられます。

コーチングは、サッカーに対する認知度が高まれば自然に増えていくものです。

例えば、指導者はうまくいかなかったとき「いまのは、お互いに理解していたのかな?」と声をかけてあげるといいかもしれません。

逆サイドでフリーだった自分には気づいてもらえていなかった。それが理解できれば、次からは「こっち、フリー!」とか、「こっちもあるよ」といった声をかけ始めます。

またそういった場面が多いなと指導者が感じれば、視野を広げるためのトレーニングを練習に取り入れるといいかと思います。

さきほど「必要なコーチングを行うためにはサッカーを理解する力が必要」とお伝えしました。指導者の大きな役割は、サッカーのなりたちを教えること。子どもたちが自分で考えたり、判断したりするベース作りをしてあげることです。

味方の選手が右しか見ていなかったら、「左、空いているよ」と教えてあげる。うしろの選手は「うしろもあるよ」と伝える。サッカーがわかってくると、プレーを予測するので自然にそのようなコーチングが生まれます。要するに、その時点で個々の選手の判断能力だけではできないことを「声」で補うわけです。

であれば、その判断ができるようになれば、コーチングは必要ないということです。

しかしながら、見渡せば小学生も、中学生も、ベンチにいる大人から「声が出てないぞ!」と言われたりしています。そうなると、試合は自分たちが練習したことを試す場なのに、声を出すことが目的になってしまいます。

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