あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2018年11月19日
「練習は好きだけど試合に行きたくない子」にどうやって接すればいい?
生徒の親御さんから「練習は行きたがるけど、試合に行きたくないと言っている」と相談をして受けてお悩みの心優しいコーチ。
「試合に来たくないならとりあえず練習だけ来ればいい」と親御さんには伝えたそうですが、皆さんならどんな言葉を送りますか。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが授けるコーチングを参考にしてみてください。(取材・文:島沢優子)
<<個々の運動能力、理解力の差でうまくいかない。 小学1年生にパスサッカーはマイナスか?
<お父さんコーチからの質問>
2年生の少年団のパパコーチです。
親御さんから相談を受けたのですが、子どもが練習には行くけど(行きたい)試合は行きたくない。と言っているそうで、コーチとしてどういった対応をしたら良いか悩んでいます。親御さんは試合出ないのであれば、チームに迷惑をかけてるかもしれないので、退部も考えているとの事です。ご両親も具体的に試合に行きたくない理由はわからないのだそうです。
試合は緊張するのでしょうか。これまでそんなに緊張しているようには感じられなかったのですが...。
自分の意見としては「その子が試合に出たいと言うまでは練習だけ来ればいいですよ」と伝えましたが、試合に出ない(来ない)のが続くと、さらに来にくくならないか、や、試合に出ない事で回りとの技術の差が開いてしまうのではないかと心配です。
基本的に週末だけ活動のチームなので、試合がある時には、その子供は1~2週間サッカーが出来なくなってしまいます。
サッカーは好きみたいなのでどうにかしたいのですが、池上さんの関わってきた子どもたちの中にもそういったお子さんはいましたか? なにか良い方法があれば教えていただけないでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
相談のなかにあるように、「練習は行くけど、試合はきらい」と言う子どもたちは少なくありません。
私の最初の著書『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』を出したのが10年前ですが、当時から試合に出たくない子どもが目につくようになりました。恐らく、理由は、大人が勝利にこだわり過ぎるからだと思います。
■自分がいると迷惑かも...。大人の気持ちを察してしまう子ども達
最近は少年サッカーでも、何が何でも勝ってやろうという姿勢が目につきます。そのため、出場規定のギリギリを守りながら、最初から最後まで上手い子だけをピックアップして戦います。そんな空気から、いいものをもっていてもその時点で技術が劣る子、少し成長の遅い子、サッカーを楽しみたいだけの子は締め出されていきます。
「僕がいると迷惑をかける」「僕が出ないほうが勝てる」と、今の子は大人が思っている以上に、大人の気持ちに"忖度"します。
つまり、大人が勝ち負けにこだわりすぎているため、負けるといろいろ言われたりする。誰かのせいにされるわけです。そういったことは、今の子どもたちには心理的に耐えられません。それが「試合に出たくない」という要因のひとつでしょう。
ですから、ぜひ低学年からミニゲームを中心にしたトレーニングをやらせてください。勝ち負けがあって当たり前。勝つときもあれば、負けるときもある、という経験をしながら勝ち負けにタフになっていくプロセスが今の子どもには必要です。
「サッカーは試合することだ」
これは、私が尊敬するオシムさんの言葉です。「池上、子どもにはゲームをやらせろ」と言われました。
サッカー(スポーツ)では、試合をするのが一番楽しいことだ。試合をするために練習しているんだよ。そんなことを子どもたちに伝えてください。普段は仲間として一緒にトレーニングをするけれど、紅白戦のときは全力で戦う。そんな感覚も必要です。
そのうえで「君はどうして試合がいやなのかな?」と、子どもたちの気持ちをしっかり聞いてあげてほしいです。
「試合がいやなら来なくていい」というのは、指導者の態度ではないと思います。
「いやだったら、試合に出なくていいからさ。でも、試合にはおいでよ。応援でもいいから」
そんなアプローチが必要かもしれません。そこで試合にやってきたら「ちょっと出てみる?」という声がけをしてもいいでしょう。様子をみながら話をしてあげます。
「見ていてどう?チャレンジする勇気は出てきた?」 そんな寄り添い方です。
■大人の勝利至上主義が悲しい想いをする子どもを生み出している
逆に「試合を嫌がるのは勇気がないからだ」とか「強くなってからこい」などと突き放すような言い方はよくありません。
「あの子が出るのはおかしい」とか「あの子のせいで負けた」などと思っていることを口に出してしまうのは、子どもの世界では当たり前です。子どもは純粋なだけに、非情で残酷なところがあります。
だからこそ、サッカーは仲間でやるスポーツだよ。仲間でやるっていうのはこういうことだよ、とサッカーの本質を大人が伝えなくてはいけません。チームプレー、フェアプレーを理解していく。そのことが人としての成長につながる。なによりもスポーツのいいところなはずです。
私は30年以上前から「全員で平等に出て勝てるのが一番いいよ」と伝えています。コーチ時代もそれを実践してきました。そしていま、それをやる人たちが少しずつ増えています。
みんなが平等に出て試合をしたら負けた。じゃあ、次はどうする? どんなことを練習しますか? と話し合えばよいのです。指導者がそんな態度で臨んでいるチームに「試合に行きたくない」と言う子は出てきません。
残念ながら、少年サッカーは過熱しています。大人の勝利至上主義で、多くの子どもたちが悲しい思いをしています。
20年くらい前、全国少年サッカー大会の参加チームを対象にアンケートが実施されたことがあります。
「1週間の練習回数は何回ですか?」という質問に「8回」と書いたチームがありました。8回以上のチームもありました。「え? 1週間は8日あるの?」と驚かさましたが、そんなチームでないと優勝できない。そんな時代がありました。
全国少年サッカーの予選は、その上の予選や全国大会に行けなければ、6年生最後の大会になります。6年生ばかりで戦えばいいのに、上手な5年生を起用します。だから多くの6年生がベンチにも入れないチームもあります。
みなさんは、そんな状況をどう思われますか。
全国大会は、サッカーを普及する役割を担ってきました。でも、すでにその役割は終えていると私は考えます。よりよい選手を育てるために、次のステップに進んだほうがいいと思っています。
一方で、日本でサッカーの指導で生計を立てる人が増えてきています。なかには、どこからか上手い子を連れてきたり、勝つために上手い子しか起用しないケースも耳にします。
しかしながら、私たち少年サッカーのコーチが一番に考えなくてはならないのは普及です。そんなことをしていると、小学生の競技人口は多くても辞める子がふえていくでしょう。
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