あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2019年1月19日
上手いけど仲間にキツい子をどう扱えばいい? 相手のことを考える力を身につけさせる指導を教えて
身体も大きく上手いんだけど、思い通りに行かないと周りに当たったりコーチにも「バーカ」と言ってしまう子。大人をなめた態度を取るのは、学校などサッカー以外の場所でもよくないのでは...と心配したコーチからご相談いただきました。
自分が指導しているチームにそういう子がいた場合、みなさんはどう指導しますか?
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがご自身の体験を通してアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)
<<日本人に合うのはティキタカでは。リフティングやドリブルなど個人技を極める方針でいいのか?
<お父さんコーチからの質問>
U-8、U-6以下を指導していますが、他の子より体も大きく、ボール扱いも上手い子どもなのですが、自分の思い通りにならないと周りにあたったり、コーチに「バーカ」と言ってしまう子がおり、手を焼いております。
家庭でのしつけも大事だと思うのですが、サッカーの場所で忍耐や相手を思いやる心を身につけさせるにはどうしたらよいでしょうか。
大人をなめた態度を取るのは学校でもあまり良くないのではと、他人のお子さんながら少し心配です。
こういったやんちゃな子に池上さんならどう声掛けをしていかれるでしょうか?
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
ご相談の文章を読んで、先日私が大学の「運動部指導実践論」の授業で学生にみせたビデオを思い出しました。
人権啓発ビデオ『わたしたちの声 3人の物語 リスペクト アザース』
2012年度全国中学生人権作文コンテストで法務大臣賞を受賞した作品「リスペクトアザース」を原作として映像化したドラマです。
作者の中学生が、米国と日本の対人関係を比較しながら「人権」について理解を深めていったプロセスを描いています。
■挙手すれば冷やかし、親切心を見せると「自慢?」とからかう日本と米国の違い
物語のあらすじはこんなものです。
米国で幼少期を過ごした男子中学生は、日本の中学校で悩みを抱えていました。
「この問題できる人?」と教師が尋ねても誰も挙手しません。今の日本の学校によくある風景です。そこでその子が挙手すると、周りはひやかします。放課後の野球部の活動で上手くいかない子に親切心で教えていると、「自慢なの?」とからかわれます。
彼はどうしたらいいのか? 日本でやっていけないと悩むのです。
米国でも、野球チームでミスをしては仲間から「君がミスをするから試合でも負ける」となじられたことがありました。
でも、そんなとき、コーチがすかさずやってきて、なじる仲間に対し「Respect others!(リスペクトアザース)」といさめてくれました。
「リスペクト・アザース」はさまざまな場面で使われました。野球チームでも、小学校でも。ビデオに登場する中学生の母親は「保育園でも先生たちが3歳の子どもに真剣に教えていたよね」と振り返ります。
彼は母親に「いじめをやめなさい、って言うよりもリスペクト・アザースと言われるほうがわかる。アメリカでは人と人の関係の基になる考え方が、小さいときから叩き込まれている」と話します。
彼は相談した米国のかつての友人に、こう言われます。
「多民族国家である米国では、人種差別がたくさんあった。そのため、リスペクト・アザースという言葉が広まった。日本の仲間を君は認めているかい? 自分からやるしかないよ。見本になって」
私は、このような人権教育が日本にないことが、米国をはじめとする海外の国との圧倒的な違いだと思います。
■勝ち負けとは別の、本当に大事なこととは
日本では、幼いころに「これを大事にしよう」とか、「こんなことは絶対に言ってはいけません」といった物事の価値観や人権、哲学を学ぶ機会が、残念ながらありません。
よって、少年サッカーで、スポーツの勝ち負けとは別に、本当に大事なことは何かを伝え続けてほしいのです。
「君はこのチームでは上手いけれど、他のもっと強いチームに行ったらどうだろう? そこで、もし下手くそなんて言われたらどんな気持ちになるかな?」
「上手い子は何をしてもいいいの? 上手くない子はダメなの?」
「君だけが上手いのなら、向こうのコートでやりますか? でも、ひとりでサッカーは出来ないよ。仲間がいるからできるんだよ。みんなで力を合わせてチームが勝つことが大切だよ」
そのような話を、いろんなことから話をつなげて言い続けることが必要です。
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