あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2019年3月15日

文句を言われたのが原因で積極的になれない子どもへの接し方を教えて

ミスをすると周りに文句を言われた経験がトラウマで、積極的にプレーできない子にどう声かけ、指導をすればいいか。というご相談をいただきました。

上手い子がそうでない子にいろいろ言ってしまうのは、サッカーだけでなく子どもたちの世界では珍しいことではないですよね。同じようなお悩みを抱えるコーチも少なくないのではないでしょうか。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)

子どもの自尊感情を高め、少しづつステップアップを。(写真はご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

<<ボールが投げられない、腰より高いボールが怖い子どもたちが飽きずにできる動きを教えて

<お父さんコーチからの質問>

地域のスポーツ少年団で1~3年生をお父さんコーチとしてボランティアで指導しています。

子ども達に指導するようになり、自分も勉強しようと、JFAのC級指導者も取得しました。

2年生の子であまり上手ではない子がいます。

その子は1年生からサッカーを始めましたが、未だに自分に来たボールはただ蹴り返すだけ、ボールを怖がる、ボールを奪いに行けないなど、ドリル的な練習は少しはできるのですが、プレッシャーの中では積極的なプレーが出来ません。

本人に積極的になれない理由を聞くと、ミスすると周りの子どもたちに文句を言われるからと言います。

確かに私がコーチをする前は上級生にかなり文句を言われてました。今は、文句を言う子たちは飛び級して別で練習してますが、どうもトラウマになっているようです。
指導のなかで、どのような声掛けや、練習をさせればいいでしょうか?

<池上さんのアドバイス>    

ご相談いただき、ありがとうございます。

上手い子がそうでない子にいろいろ言ってしまう。
そのような状況は、少年サッカーに限らずすべてのスポーツに起きていることでしょう。子どもは自分の感情に正直です。最近指導にうかがったクラブでも、同じような悩みを耳にしました。

私たち大人たちは、彼らが小さいときから「仲間を大切にしなさい」と言い続けなくてはいけません。

ここでは、このような問題に対して、大人ができることを三つアドバイスします。

■「できること」を認めて自尊感情を高めてあげる。ミスは「チャレンジ」

ひとつめは、積極的になれない子どもの自尊感情を上げたり、できない子ができるように助けることに努めてください。

「できたね」「今のは良かったよ」

子どもたち同士がそのように認め合う場面がたくさんあるといいのですが、まずはコーチが彼らの足らないところを補完しましょう。

そして、「できる子は、できていない子を助けてあげて」と大人が言い続ける必要があります。

できることが少ないと、子どもは自信を失ってしまいます。でも、できることも絶対にあります。その「できること」を認めてあげましょう。

例えば、対人ではなくドリル的な練習であれば少しできるとします。であれば、最後にコーンの代わりにコーチが立ちます。

ジグザグでドリブルをしていってコーンを抜け出したらコーチがいる。コーチはコーンよりずっと大きいので難易度が増します。そこを、コーチを抜いて行ってフィニッシュにします。

最初はうまくいかないかもしれないけれど「大丈夫、もう一回やろう」と言って励ましましょう。最初は立っているだけですが、少しずつディフェンスをして壁になります。その壁を抜けていくことで自信になるわけです。

スモールステップで少しずつ、が、大事です。出来たことも、できなかったことも、認めてあげましょう。「失敗だったね」ではなく、そこは「チャレンジしたね」と受け止めてもらいます。

■個人間の問題でなく、チーム全体のことだと捉える

ふたつめは、仲間の失敗を責めたりいじめに近いようなことが起きているのなら、本人に話を聞いてから全体の問題としてチームで話し合いましょう。

よくあるのは、文句を言う子どもと言われる子どもの両者だけをピックアップして、「謝りなさい」とか「二度と言わないと約束しよう」などと仲裁するケースです。そうではなく、そのようなことが許される空気がチームにあるととらえて、全員を集めます。

うまくいかないとか、何かができないと、プレーをしなくなる。それはチームにとって、いいことなのか。どうしてそうなるのか。

個人を責めるのではなく、みんなに「チーム全体のこと」として考えてもらいます。

以前、この連載でお伝えした「リスペクトアザース(他者を敬え)」を憶えていますか? 子どもたちはまだ小さくて、未熟だからこそ、このことを伝え続ける必要があります。

■保護者にも聞こえるように話す

三つめは、この「リスペクトアザース」の価値観など自分たちの考えや、やろうとしていることを、保護者にも伝えることです。

よって、いつも子ども全体に話す場合は、親に聞こえるように工夫します。もともと親御さんたちは、コーチがわが子に何をしゃべっているのかを知りたいはずです。彼らがいる場所に近づいて、そこで話す。もし、保護者が気を使って離れるようなら「お母さんやお父さんたちもぜひ一緒に聞いてください」とひと声かけてもいいでしょう。

さまざまなクラブへ行くと、保護者への対応に困っていることは多いようです。子どもの育て方や接し方について、指導者と保護者の間に大きな乖離がありそうなら、余計に聞いてもらったほうがいいでしょう。

加えて、この相談文を読むと、そのお子さんが「上級生に文句を言われていた」という記述があります。1年から3年生までが縦割りで一緒に活動しているようなので、そういったことは起きるでしょう。冒頭でもお伝えしたように、自分の感情をそのまま吐き出してしまう年齢です。

どこにでもあることだからこそ、「仲間を大切にしなさい」と言い続ける必要があります。

このことを「上級生だから理解しなくちゃダメでしょ」と言ってはいけません。

そうではなく、できる・できないの差別をなくすことが重要です。

「できる子ができない子に向かって、文句を言ってもいいのかな?」

そんなふうに問いかけて、答えを探させてください。決して「上級生だから」とか「サッカーがうまいから」といった理由ではないよということです。

「上級生だから」「君はうまいんだから」といった言い方よりも、「できる子が助けようよ」という説明のほうがわかりやすいでしょう。

次ページ:できる子もできない子も疲れてしまう理由

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