あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2019年6月21日
リフティングのノルマって必要? 達成しないと試合に出さないなんて子どもからサッカーを奪っているのでは...お父さんコーチの悩み
リフティングのノルマを達成しないと試合に出さないチーム方針に異議を唱えるお父さんコーチ。回数を達成していないけど、ドリブルが上手いなど他の長所がある子も出さないなんて、子どもからサッカーを奪っているのでは。と苦悩しているコーチ。
目に見えて上達が分かるので、親御さんたちもリフティングの回数を重要視する方もいますが、「リフティングが上手くなると、サッカーが下手になる」と池上さんは語ります。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、試合で使えるボールコントロールを身につけるリフティング練習の組み込み方を紹介してくれたので参考にしてください。(取材・文:島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。いつも拝見させてもらっています。
最近までU-9年代の保護者コーチとして指導の手伝いをしていました。
チームの方針としてある年代までにリフティングのノルマがあり『達成できない子どもは練習試合以外の試合出場は認めない』と言うルールがあります。
確かにやって出来ない回数ではありません。チーム側はサッカーが好きで練習しているんだから家でもボールを蹴る時間もつくれば簡単にこなせるノルマです。と言います。
私も理屈はわかっているつもりですが、
・リフティングのノルマは達成していなくてもドリブルが上手い、遠くに蹴れるなどの長所がある子どもも試合に出したらいけないのか?
・何故そこまでノルマ達成にこだわるのか?
・子どもからサッカーを取り上げるのか?
と意見したところ数ヶ月後に上層部よりチームの方針と合わないから指導させるなと言われてしまいました。
今私は何が子ども達のためになるのかよく分からなくなってしまっています。
リフティングのノルマってそんなに大切にすべきものなのでしょうか。ボールコントロールは大事ですが、試合の中でリフティング練習のように直立でボールを扱う場面なんてほとんどないと思うのですが...。
池上さんの意見を聞かせていただきたいです。
<池上さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
「ボールコントロールは大事ですが、試合の中でリフティング練習のように直立でボールを扱う場面なんてほとんどない」
ご相談者さまのおっしゃる通りです。
サッカーの指導にも、子育てにも「よくよく考えると、これはどうなんだろう?」と疑問に感じることはあります。ただ、みなさん、なかなかそこで立ち止まって考えたり、議論したりしません。
リフティングについても同様です。私はひとりで黙々と何百回もこなすリフティングは必要ないと考えています。
■実は危険、日本で根強い「リフティング信仰」
先日、うかがった講演会に来られたお母さんが、私に質問してくださいました。息子さんは中学生でジュニアユースのクラブに所属している。
「でも、家でリフティングをやらないんです。どうしたらいいでしょうか」
息子さんがリフティングの自主練をしないことが不満だと言います。
「そうですか。でも、リフティングが上手くなると、サッカーが下手になりますよ」と私が答えたら、お母さんは「でも、リフティングができたら、トラップがうまくなるじゃないですか」と食い下がります。
そこで、説明しました。
「試合で使うボールコントロール(トラップ)は、リフティングではありません。ボールコントロールは、守備をしてくる相手がいます。よって、ファーストタッチをどこに落とすか、判断が必要です。でも、リフティングには判断はありませんね。私はその時間があるなら、ほかのことをやったほうがいいと思います」
お母さんは非常に驚いていました。
みなさんなんだか自動的に「自主練はリフティング。一番目に見えて上達が見えるもの」ととらえていませんか?。
私は、そのとらえ方が一番危ないと考えます。子どものテストの点さえ良ければ、それでいい、子育てはうまくいっていると思い込むのと似ています。テストの点はわかりやすいです。そのようにわかりやすいものだけで子どもを判断するのは、実は危ないのです。
スポーツの技術が高まる、上手くなる様子は素人が見てもあまりわかりません。したがって、専門的なことは語らないほうがよいでしょう。
「サッカー、楽しいかな?そう、楽しいんだね。OK」
リフティングの数よりも、自由に、そして、自分からサッカーに取り組んでいるかどうか、という部分に目を向けてほしいものです。
このように、日本では「リフティング」イコール「サッカー」ととらえる。リフティング信仰が根強いようです。
ご相談者様の指摘以外で考えられるリフティング不要の理由は、「下を向く時間になる」ことでしょうか。
リフティングしているときは、子どもはみんなボールを見ています。つまり、ヘッドダウンしている。サッカーは下を見ないスポーツです。回数を多くすればするほど、下を向いたまま。ほかの選手の動きに注目できません。
■リフティングが3,000回できる意味は? 回数より大事なこと
例えば、ジェフ時代、ほかのJリーグクラブの下部組織の小学4年は3,000回くらいやっていました。
私の講習会をした際「二人組になって、ワンバウンドリフティングでいいから二人のボールを入れ替えてごらん」というと、入れ替えが3回も続かない。子どもたちは「せ~の」と声をかけて息を合わせますが、そもそも相手を見ていません。自分のタイミングを優先します。
そこに居合わせた指導者たちに私はこう話しました。
「みなさん、皆さん、リフティングが3000回できる意味はなんでしょうね? サッカーの試合では何人も味方がいますね。。これではこの子達は味方を見られませんね」
しかも、これは子どもに限った話ではありません。
大学生に「パスして入れ替えてごらん。同時に蹴ってごらん」と言うと、やはりできません。
「せーの」とか「1、2、3」とか掛け声はかけますが、同時に蹴れません。
「なぜなのかな?わからない?せ~の、って言ってるとき、みんな下を見てるよ。相手の足を見て蹴ってごらん。うまくできるんじゃない?」
そう話すと、「え~っ、うまくできた!」と歓声が上がります。それが本来必要なことなのに、みなさん何も考えず何千回とやらせています。そこを多くの人に理解してもらわなければいけません。
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