あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2020年8月14日
「ボール扱いは上手いけど連携できない」12歳の選手にチーム戦術のイメージを共有するには?
みんな技術はあるのに「1対1を組み合わせた」ような感じで、試合中プレーのイメージを共有して連携することができない。戦術のイメージを共有できるようにするにはどうすればいい? というご質問をいただきました。
日本の選手は欧州の指導者にも「日本の子どもはボール扱いがうまい」とは言われますが、それだけ......。こういった連携の問題は、中学生年代でも見られるそういです。その原因とは。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、イメージの共有、連係プレーを理解させる指導に役立ててください。
(取材・文 島沢優子)
<<ドリブルは好きだけど仲間との協力が苦手なU-6世代、この年齢は個人技の習得が優先?
<お父さんコーチからの質問>
U-12世代を指導している者です。
これまでも戦術理解や連携についての相談があると思いますが、うちのチームでもそこが課題です。
ボールを扱う技術はあるのですが、攻撃の際にも1対1を仕掛けることが多く、周囲とイメージを共有して連携することが上手くいかないことがあります。
例えば試合で2対2の状況になったときに、壁パスを使って突破したらいい場面でも、パスを受けた子が単騎突破を図ろうとすることが多いです。仮にリターンパスを返しても、お互いのイメージがズレているので連携が成立しないのです。
上手く伝わるか分かりませんが、みんな技術はあるのに「1対1を組み合わせた」ような感じで、複数人での連携が上手くいかないのです。
トレーニングでロンドをやる時も、中央にフリーマンがいるのにそこをうまく使えません。フリーマンの子の頭上を越えるようなパスを通そうとしたりします。プレーが素直で(悪く言うとわかりやすい)駆け引きなども得意でありません。
戦術イメージを共有できるようにするには、どんな教え方が良いのでしょうか。
アドバイスをいただけると幸いです。
<池上さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
12歳といえば小学6年生です。目の前の子どもたちに対して、どう指導するかは後でお伝えしますが、のちの指導に役立てるためにも、ここまでどう育ててきたのかを振り返る必要がありそうです。
■欧州のコーチにも「ボール扱いがうまい」点だけは褒められるが......
恐らく低学年からクラブで指導されてきた子たちでしょう。その際、「1対1で抜け」「勝負しなさい」と言い続けてきたのではありませんか?
私にも小学校中学年の孫がいますが、スクールでの指導を見ていると「こんなときはどうする?」「こうしたらいいかもしれないね」といった、子どもに考えさせるような、成長につながるような声掛けはほとんどありません。
子どもたちは自分が点を取りたくて、半ば猪突猛進にドリブルしています。うまい子はそこで相手を抜き去ってゴールできれば喜びますが、他の子たちを見ると「やった!」と心の底から嬉しい、という感じではありません。
幼児や低学年はサッカーの入り口です。みんなで協力して点を取って、みんなで喜ぶという経験を積んでほしいと思います。自分が点を取るのも、仲間が取るのも、すごくうれしい。そんな気持ちを育てることが、この年代を指導する大人の一番の使命である「サッカーを好きになってもらう」ことに直結します。
欧州のコーチは皆、口を揃えてこう言います。
「日本の子どもはボール扱いがうまいですね」
でも、そこしか褒めません。ほかに褒める要素がないからではないでしょうか。日本の子どもは足先、つまりボールコントロールのスキルは高いけれど、全員で連携する感覚が不足していることに彼らは気づいています。
■練習でやったことを試合のどの場面で使うか、理解が足りていない可能性がある
ご相談者様も、この「全員で連携する感覚」のなさを嘆いています。相談文に、ロンドをやる際、フリーマンがいるのにそこをうまく使えないと書かれています。加えて「プレーが素直で駆け引きが得意ではない」とありますが、これは駆け引きする力云々よりも、サッカーという競技の認知力が低いのだと思います。
サッカーはこんなふうになっていますよと、低学年もしくは幼児の頃から教えなくてはなりません。「ロンド」とは鳥かごのことですが、この練習でやったことを試合のどの場面でどんなふうに使いますか? ということを学んでいなくてはいけません。そこが足りないのかもしれません。
ひとりでやってしまう。他の選手と連携が取れない。こういった問題は中学生でも見られます。
私は中学生の指導の際、こんな練習をします。
「これからやる練習は、ゲーム形式であるけれど、狙いは得点することではないよ。自分たちでボールをつないでどれだけキープできるかを意識してやってみよう。もちろん、うまくワンツーで抜け出せるとか、チャンスがあれば攻撃してもいいよ。ただし、まずは相手にボールを取られないようにやってみよう」
このように丁寧に説明するのですが、いざ練習を開始すると、中学生は前にしかいきません。ひとりでドリブルで前にばかり行ってしまいます。狭いところに入っては取られてしまいます。
事前に、ゲーム形式の前の練習では、2対1、3対1といった数的優位のできるものを行っています。ここで「相手に取られないようにやってごらん」と言うと、ちゃんとボールをつなぎ相手に取られないでプレーできる。ところが、そのあとゲーム形式にした途端、前に行くことしか考えられなくなるのです。
■サッカーの成り立ちを理解していない子たちに理解させるためのトレーニング
さて、それをどう変えたらいいのでしょうか。
前出の2対1、3対1、3対2といった数的優位の場面が出てくるオープンスキル(対人練習)を小さいときからやらせてください。さらに、漠然とやらせるのではなく、「これは算数の勉強と一緒だよ」と伝えます。
4対3の練習で、4人で攻撃しているときにボールを持っている自分にひとりついている。ドリブルで移動したら二人を引き付けられた。
「じゃあ、ほかの人は何対何?」
相手はひとり、味方は3人。他のところにチャンスがある――。
当たり前のことなのですが、そんなふうに見られない子どもが日本にはいっぱいいます。残念ながらサッカーの成り立ちが理解されていません。例えばホワイトボードを使うなどして、まずは頭の中でイメージできるよう教えてください。
そのうえで、前述した私が中学生とやった練習を続けてみてください。ゲーム形式だけど、ボールを取られないことを意識してもらいます。
サッカーで前に行くことは大事で、前へアタックする気持ちを消したくはないのですが、まずはコンビネーションをとる意識をもってもらうことが重要です。安全なところでボールをもらおうとすると、後ろで回すだけになりがちです。
そこで子もたちに尋ねます。
「後ろで回していると、相手はどうなりますか?」
そう、相手は出てきます。ならば、ワンツーで相手の裏に入れば、そこには広いスペースがある。後ろで回しながら相手を引っ張り出したら、裏のスペースを衝く。そういったことをぜひ理解させてください。
ドイツの育成世代のトレーニング映像では、9歳がそれをやっていました。子どもたちの様子を見ていると、「どこにパスしようかな」とみんなが思っていることがわかります。
非常に個人スキルの高い子がいても、決してドリブルで突破したりしません。相手が寄ってくると、さっとさばきます。そして、すぐに上がっていき、スペースを見つけてまたもらおうとする。その子同様、他の子たちもみんなで攻め上げっていきます。