【安全のコーチング】知って防ごう、熱中症
2019年8月 2日
注意すべきは気温だけじゃない! 熱中症予防で大事な指標「WBGT」とは? -知って防ぐ熱中症の正しい知識-
夏場のサッカーで注意しなければならないことと言えば熱中症です。近年は、気温の高さだけでなく湿度などにも注意が必要な事が分かってきましたが、それ以外にも気を付けるべきことがあるのだそうです。
今回は、現在のジュニア年代のコーチングの要点や知っておかなければならない外傷や応急処置の正しい情報ををまとめた1冊「子どもの本気と実力を引き出すコーチング」から、熱中症の正しい知識と予防法について3回に渡ってお送りいたします。
国際武道大学、スポーツ研究科教授、武道学科長で、文部科学省が設置した「体育活動中の事故防止に関する研究協力者会議」の委員としても活動し、「学校における体育活動中の事故防止について」(文部科学省)などの著書がある立木幸敏さんに、熱中症の定義から対処法までご紹介いただいておりますのでご覧ください。
最終回となる第三回目の今回は、熱中症で気を付けなければいけない気温以外の要素についてお送りします。実は気温が高くなくても熱中症になるのです。熱中症予防の指標となる「WBGT」とは?
<<前回:ただ飲めばいいわけではない! 熱中症対策の水分補給、何をいつ飲むか? -正しい熱中症対策-
■気温が高くなくても熱中症になる、熱中症予防の指標「WBGT」とは
熱中症で気をつけなくてはならないのは気温だけではありません。湿度がとても重要です。気温があまり高くなくても、湿度が高いことによって熱中症が発生します。 熱中症を予防するための指標として湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature)があります。また、それを測定するためにWBGT計(気温・湿度・輻射熱を取り入れた環境温度を計測する機械)の価格を抑えた物も販売されています。それほど高価ではないので、クラブで1台購入することも考えてみてください。
練習前に天気、温度、湿度から熱中症の注意喚起が容易にできますので、チームで準備されると良いと思います。また屋内スポーツの場合、体育館や道場の風通しは良くする必要があり、扇風機なども利用することも検討してください。また一番注意していただきたいのは、一番暑い時間帯は避けることです。猛暑日などは早朝とタ方に練習をずらして行っているのが珍しくなくなりました。
夏期以外、気温がそれほど高くなくても、湿度が高い時は、汗が蒸発しにくく、気化熱による冷却が進まず体温が上がりやすくなり、熱中症は発生します。
秋の駅伝などでもみられるように、運動中に2~3度気温が上がってしまった場合や体調不良などで、体が対応できなくなり、脱水状態を招くこともあるのです。
運動の際にはWBGT計を用意して、その時の環境・温度によって練習の強度も調整しましょう。
■熱中症の症状と重症度
熱中症の重症度は大変わかりにくいものです。近年、日本救急医学会からⅠ〜Ⅲ度の分類が提唱されていますので参考にしてください。
これはⅠ→Ⅱ→Ⅲが連続した病態としており、体調不良者の観察が必要です。
我々一般市民はⅠ度かⅡ度の判断をおこないます。Ⅱ度かⅢ度の判断は医療機関で医療者が判断することとしています。Ⅱ度以上は病院に搬送します。特に現場でⅢ度の症状がある場合は応急処置と救急車の迅速な手配が必要です。
■「へばるまで練習しないと効果がない」なんて言語道断
最近の人は暑熱環境下に対して耐性が低くなってきたのでしょうか? こんな説があります。汗が出る器官を汗腺と言いますが、その数は遺伝的に決まっているかと思いきや、どうやら子どもの頃の環境によって数が決まってくるようです。
つまり日本人であっても、生まれてから熱帯地方で生活すると成長の過程で汗腺が現地の方と同じ程度までになるようです。今の日本では家庭にもクーラーが当たり前になっていると思います。今の日本人は発汗能力が弱くなっていると考えるのが妥当です。
最後に日本スポーツ協会発行の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」から医師でスポーツドクターの川原貴氏(元国立スポーツ科学センター・センター長)のコメントを引用したいと思います。
「練習はへばるまでやらないと効果がない、というような考え方では熱中症はなくなりません。時にはへばるまでやることも必要かもしれませんが、それは涼しいときにやるべきで、夏の暑い時には避けるべきです。夏のトレーニングはなるべく暑い時間を避け、休憩を頻繁に取り水分摂取を十分に行うなど暑さ対策をすることによって、へばらない状態を維持し、トレーニングの質を確保することがトレーニング効果につながるという考え方であれば、熱中症事故が起こる事はないと思います」
■継続した予防の努力が必要
近年、熱中症の緊急搬送が増えていることが問題になっています。2010年から5万人を超えるようになり2017年は52,984人、猛暑であった2018年は95,137人の搬送があり、死亡者数も2017年が48人、2018年は160名であったことが総務省より報告されています。
原因としては様々な環境要因が指摘されていますが、昔とは環境が違うと考えることが妥当だと思われます。
さらにスポーツにおいてはどのような影響があるのでしょうか、日本スポーツ振興センターが発行している「体育活動における熱中症予防 調査研究報告書」の第2編 学校の管理下の熱中症の発生傾向では、学校管理下の熱中症死亡事故の発生においてクラブ活動別の報告があります。それによると1975〜2017年では野球が最も多く、ラグビー、柔道、サッカー、剣道と続きます。炎天下の競技に多い傾向にもありますが室内競技で競技人口も多いとは言えない、柔道と剣道で多いことも大変気になります。
死亡事故を減らすのは各競技団体で安全講習会などで予防に努めていますが、関係者の継続した努力が必要です。
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【著者プロフィール】
立木幸敏(たつぎ・ゆきとし)
1965年生まれ
国際武道大学体育学部、同大学院武道・スポーツ研究科教授、武道学科学科長
教育学修士
著書「学校における体育活動中の事故防止について」文部科学省、「新版 これでなっとく使えるスポーツサイエンス」講談社サイエンティフィック、「ドーピング」講談社ブルーバックス
その他...合気道六段(合気会)、国際武道大学合気道部部長