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【安全のコーチング】知って防ごう、熱中症
ただ飲めばいいわけではない! 熱中症対策の水分補給、何をいつ飲むか? -正しい熱中症対策-
公開:2019年7月26日
夏場のサッカーで注意しなければならないことと言えば熱中症です。近年は、気温の高さだけでなく湿度などにも注意が必要な事が分かってきましたが、それ以外にも気を付けるべきことがあるのだそうです。
今回は、現在のジュニア年代のコーチングの要点や知っておかなければならない外傷や応急処置の正しい情報ををまとめた1冊「子どもの本気と実力を引き出すコーチング」から、熱中症の正しい知識と予防法について3回に渡ってお送りいたします。
国際武道大学、スポーツ研究科教授、武道学科長で、文部科学省が設置した「体育活動中の事故防止に関する研究協力者会議」の委員としても活動し、「学校における体育活動中の事故防止について」(文部科学省)などの著書がある立木幸敏さんに、熱中症の定義から対処法までご紹介いただいておりますのでご覧ください。
第二回目の今回は、熱中症の予防として多くの人が実践している水分補給と休養の正しい知識をお送りします。水分補給で注目すべき成分とは?
<<前回:汗をかいていなくても、体温が高くなくてもなる! 「熱中症」の定義と4つの症状
■何を飲めばいい? 注目する成分は?
熱中症の予防には適切な水分摂取が重要です。スポーツ活動時に何を飲むかは迷うところです。近年のスタンダードはスポーツドリンクです。単に水分を取ればいいというものではありません。運動時の水分補給はよく冷えたもの、糖度のあるものの方が、体温も上がっていますし、 浸透圧の関係で吸収もよくていいです。
スポーツドリンクの成分表を見ると様々な成分が入っていることが記載されていますが、最も注目していただきたいのはナトリウム(Na)です。
100ミリリットル中、40~80ミリグラムのNa(ナトリウム)が入っていることが必要です。最近、ドリンクメーカ各社のスポーツドリンクがこの成分に近づけたものにしているようですが、購入時必ずチェックしてみてください。
■飲むタイミング、適切な摂取量
飲むタイミングですが夏期は普段から水分を摂取することが大切であることはニュースなどでも情報が流れていると思います。
さらに運動の前には事前飲水が重要です。体重の2%程度の水分の減少で運動能力、体温調節機能が低下します。ですから「のどが渇いた」と感じる前から積極的に水分を摂ることが大切です。この様な考え方はウォーターローディングとも言われ、 夏期の運動では成人男子で事前飲水として約250~500ミリリットルのスポーツドリンクを飲んでから行うと良いでしょう。飲み方は一気に飲まないこと。もちろん量が多くて飲めない場合は、減らしてください。
また15~30分に一回の休み時間をとり、自由に水分が摂取できるようにしてこまめな水分補給ができるようにしておくべきです。また飲水は摂取量の研究からストローよりコップが良いようです。
夏期は多量な発汗があり体重が減少しますが、運動前と運動後の体重減が2%以下になるように水分の摂取の目安としてください。毎朝起床時には体重をはかり、就寝中に失われた分の水分を補給。
さらに夏期の運動中に水しか飲まない場合、発汗で塩分などが排出され水だけが補充されることで、身体を構成している体液中の成分が薄まってしまい(低Na症)、熱けいれんが発生することがあります。
【注意】
スポーツドリンクは日常においてはあまりおすすめできません。また氷がたくさん入った冷たすぎる飲み物は胃腸の働きを弱め、逆に夏バテを促進してしまいます。また糖度の高いものも、運動時以外は体に吸収されにくく、水分の補給にならないのでおすすめできません。
またNa(ナトリウム)成分の入ったスポーツドリンクの摂取については、高血圧などで医師から食事制限 (塩分制限)のある方は主治医に必ず相談してください。
競技としてスポーツに取り組む場合は、適切な量の水分を、適切なタイミングで補給すれば、運動能力を維持し、 最後までしっかりと運動に取り組むことができます。また糖分・塩分・鉄分の補給は、集中力・判断力といった脳の活動の維持にもつながります。不注意によるケガを防ぐこともできますし、指導者の手本・話も集中して聞くことがでます。
■体が暑さに慣れていない時は要注意
体調は日々変わります。夏場は日常生活(睡眠中にも)でも体内から水分が蒸発し(体温調節のため)、夏バテのひとつの要因は脱水とも言われます。
また、暑さへの慣れの問題もあります。日頃十分に運動をしている人であっても、急に暑い場所で運動をしたとたんに熱中症になるケースもあります。急に気温が上がった日や、夏合宿の初日などは十分に注意してください。暑さに慣れると、血液量・汗も増加し体温調節がしやすくなり、それに反応して尿が少なくなります。また塩分を体にとどめるホルモンも増加します。
四季のある日本では季節ごとにからだが変化します。夏に向かい気温が上がると暑熱環境下に身体が適応していきますが、それには1週間以上かかると言われます。いきなり夏日になると身体が全くついていくことができません。
アメリカンフットボールなどでは夏期合宿に入るときには1週間は防具を着けずに練習し、暑熱順応させるところもあるそうです。
夏合宿など、環境負荷をかけた練習は、乗り切った達成感は特別なものがあります。しかしそれによって体調不良になったり、入院するような事態は避けなくてはなりません。 暑熱馴化は、高温下で1時間程度の軽い練習からはじめ、徐々に強度や時間を増やしていきます。
一週間ほどで、ほぼ暑さに馴れたからだができます。暑熱馴化すると、汗をかきやすくなります。さらに汗のナトリウム濃度の減少、循環血液量が増加します。その結果、皮膚への血液量が増加し、熱は体の深部から表面に運ばれ、放熱されやすくなります。さらに、体温が著しく上昇する前に発汗量が増加して、蒸発による体温調節が効果的に行われます。
暑さに馴れる段階では、血液量を維持して発汗能力を高めるために、頻繁に、そして適量の水分を摂取することが大切です。
■元気そうに見えても子どもは急に体調が悪化する 肥満も熱中症のハイリスク
子どもは、はた目に元気そうに見えても、急に体調が悪化してしまうものです。また、前日からの体調不良にも注意してください。下痢、夜更かしなど脱水や過労があると熱中症の危険性があがります。さらに肥満は熱中症のハイリスクグループであり注意が必要です。
運動と栄養と休養のサイクルを守る。適度な運動で汗をかいて、水分と栄養をしっかりとって、しっかり睡眠と休息をとる。常日頃の体調管理が熱中症対策には必要です。
夏は汗をたくさんかきます。その汗によって、多くのミネラルが体から失われます。ミネラルをきっちり補給しないと、体力が落ちていき、やがては 「夏バテ」となってしまいます。食事をしっかりとることです。また疲労回復にはビタミンB1(豚肉、レバー、大豆、など)、ビタミンC(緑黄色野菜、レモンなど)、クエン酸(お酢、梅、柑橘類など)が有効と言われています。
■適切な睡眠と入浴
疲労を蓄積しないためには、適正な睡眠も必要です。疲労回復を促進する成長ホルモンの分泌は睡眠後の数時間がピークと昌われています。その時間に深い眠りについているのが理想です。遅くとも夜は11時前には眠ることをおすすめします。睡眠中に汗をかくので、寝る前、そして朝起きた時に、コップ1杯程度の水を飲み、こまめに水分を補給することを推奨します。
いい睡眠には、ぬるめのお湯(37~40℃)でゆっくり入浴すると効果的です。気持ちを鎮める副交感神経が働き、落ち着いた気分になり、眠りやすくなります。温まってから布団に入り、体温が下がってから眠るといい睡眠がとれます。また副交感神経が働くと胃腸 の働きもよくなるので、タ食にとったものの消化・吸収を助けます。
熱いお湯(42℃以上)に入ると、緊張、興奮の自律神経「交感神経」が優位に立ち、しっかりと目が覚めた状態となってしまいます。血圧も高くなるので、一般的にはお勧めできません。
きちんと水分補給をして適切な睡眠と入浴で疲労を回復。安全にスポーツをするためにもきちんと心がけてください。
【著者プロフィール】
立木幸敏(たつぎ・ゆきとし)
1965年生まれ
国際武道大学体育学部、同大学院武道・スポーツ研究科教授、武道学科学科長
教育学修士
著書「学校における体育活動中の事故防止について」文部科学省、「新版 これでなっとく使えるスポーツサイエンス」講談社サイエンティフィック、「ドーピング」講談社ブルーバックス
その他...合気道六段(合気会)、国際武道大学合気道部部長
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