マンチェスター・ユナイテッドは香川真司選手の出場はありませんでしたが、4-1でプレミア連覇に向けて発進。ネイマールの新加入で湧くバルセロナも途中出場のネイマールのゴールこそなかったもののメッシらの大量7ゴールで圧勝スタート。先週末はイングランド、スペインでもリーグが開幕し、いよいよヨーロッパサッカーのシーズンが到来です。
華麗なプレーは子どもたちの憧れ。イマジネーションの源でもあります。みなさんサッカー観ていますか? もちろん世界最高峰の技をテレビで観戦できるヨーロッパサッカーもいいのですが、今日はもっと身近にあるサッカー。Jリーグのお話しです。みなさんJリーグ観ていますか?
■サッカーをプレーする子どもたちはサッカーを観ない?
「観たことがない」「スタジアムに行ったことがない」
サッカーをやっている子どもたちに話を聞くと、意外にスタジアムでJリーグを生観戦したことがない子どもたちが多いのに驚かされます。中には親御さんと熱心にスタジアムに足を運ぶ子どももいますが、彼らにしてもサッカーを一生懸命やり出すと足が遠のく事情があります。Jリーグが開催される週末は、彼らも試合の真っ最中。観に行きたくても自分のチームの練習や試合で“忙しすぎて”、Jリーグを観ている暇がないのです。
この問題はずいぶん前から言われていることです。Jクラブも地域のチームを無料招待したり、指導者の方でもチームを率いてJリーグ観戦に出かけたりと工夫はしているのですが、やはり週末は子どもたちにとっても「思い切りサッカーができる」貴重な時間であることには代わりがなく、サッカーをプレーする子どもたちが、日常的にスタンド観戦することが難しい状況に大きな変化は見られません。
2013年6月4日、日本代表がブラジルW杯出場を決めた日。試合は引き分けに終わりましたが、出場決定の瞬間、みなさんまたはみなさんのお子さんは何をしていたでしょう? 「実はこの日も練習で試合は観ていません」もしかしたらそんな子どもたちも多いのかもしれません。あの日スタンドであの瞬間を見た子どもたちは、たぶん一生そのことを忘れないでしょう。たとえテレビを通してでも、得られたものは大きいはずです。
次の日の校庭で日本中の小学生が「俺、本田ね」とゴールの真ん中にPKを蹴り込む姿こそが、明日の日本代表を強くする“サッカーのある風景”なのです。
■ゴール裏からピッチへ ローマに育てられたトッティ
セリエAのASローマにフランチェスコ・トッティ選手というスター選手がいます。類い希な才能と端整な顔立ちで“ローマの王子”として絶大な人気を保ち続けている選手です。彼がローマで愛される理由は、サッカーの天賦の才の他にもうひとつ理由があります。
トッティは生粋のローマっ子。生後1歳でローマのレプリカボールと戯れ、熱狂的なローマファンだった父に連れられ、本拠地・スタディオ・オリンピコに毎週末通い詰める正真正銘の“ロマニスタ”だったのです。トッティは当時のスター選手、ジャンニーニのプレーに目を輝かせ、その一流の技を目に焼き付けて幼年期を過ごしました。イタリアでは熱狂的なファンが集うゴール裏のことを「グルヴァ」と呼びます。トッティはローマの「グルヴァ」から生まれた選手です。有力選手の移籍が当たり前のヨーロッパサッカーでローマ一筋、20年以上もクラブの顔として君臨し続けているのは異例中の異例と言っていいでしょう。トッティはゴール裏から飛び出してピッチに進み、ジャンニーニのあとを受け継いで“ローマの王子”になったのです。
トッティの例を見るまでもなく、幼年期に憧れの選手のプレーを間近に観ることは間違いなくプラスに働きます。世界のトッププレーヤーの多くは、インタビューで子どもの頃、父親に連れて行ってもらったスタジアムを原体験として語ります。
「あのときの憧れが自分のキャリアのスタートだった」
彼らは生のサッカーを教科書にサッカーに触れ、サッカーをより深く知っていくのです。
Jリーグが発足して20年、わが国初のプロサッカーリーグは、これまでサッカーとは無縁だった多くの地域に、サッカーと触れ合う機会を運んできました。シーズン中ならばほぼ毎週末、生でプロ選手のプレーが見られる。ディビジョンの違いはあっても地元に応援できるサッカーチームがある。
子どもたちの練習や試合はとても大切ですが、ときには練習を少し早く切り上げ、近くのスタジアムに足を運んでみませんか? あの暑かった夏、親子で観たサッカーは、確実に子どもたちに“何か”を残すはずです。サッカーを観て、サッカーを感じることでしか得られないことが、そこにはあります。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/サカイク編集部