■ほめるポイントは結果や能力ではなく「がんばっていること」
サッカーに詳しくないお母さんたちは、どこをほめたらいいかわからないことも多いものです。そんなときに使えるほめフレーズはありますか?
自分の子を他の子や一般的な基準と比べると、うちの子は足が遅いとかテクニックが劣っているといったように、ネガティブな側面が目についてしまいがちです。しかし、ほめる時に、目立っていいポイントを見つける必要もありません。そして、他の子より優れているかどうかを判断する必要もありません。本人がその日がんばっていたことを、単純に言葉にすればいいのです。
「よくボールを追いかけていたね」
「試合の間、たくさん走っていたね」
「真剣な顔でプレーしていたね」
ここに「すごいね」などのほめ言葉を付けると、すぐにボキャブラリーが尽きてワンパターン化してしまいます。前編で説明したように笑顔や声のトーンにほめたい気持ちを込めて、単純に事実を言ってあげるだけで十分です。
■これがわかれば応用が効く!ほめフレーズの基本的考え方
最後に、ほめフレーズを使いこなすための基礎知識として、子どものどんなところに注目して、どんな言葉を使うといいかについて解説します。
専門的な話になってしまいますが、NLP(神経言語プログラミング=トップ営業マンや優れた心理療法家などのコミュニケーション方法をひも解いた手法)開発者のひとりであるロバート・ディルツによると、人の見方には以下の6つのレベルがあるとされています。
(1) 環境…持ち物、着ている服、行動の結果
(2) 行動…すること、考えること
(3) 能力…肉体的スキルや思考法
(4) 信念価値観…「何を大切にしているか」といった能力育成・行動の根本的理由
(5) 自己認識…自分の役割や存在意義
(6) 関係性…人や世界とどのようなに関わりの中にっているか
例えば、ケーキが1つしかなく、子どもがそれを妹に譲ったとします。
その行動を上記の6つにあてはめてほめフレーズをつくれます。
(1) 環境…「妹がケーキを食べたんだ」
(2) 行動…「1つしかないケーキを妹に譲ったんだね」
(3) 能力…「妹がケーキを食べたがっているのがわかるなんて優しいね」
(4) 信念的価値…「ケーキが1つしかなかったら、小さい子優先だと考えてたんだね」
(5) 自己認識…「○○くんは、ケーキを妹に譲って優しいお兄ちゃんだね」
(6) 関係性…「ケーキを譲る優しいお兄ちゃんが、きっと妹は大好きだよ」
1の環境と2の行動は、見てわかることなのですぐに言葉にしやすいでしょう。レベルの数字が上がると、目に見えない部分になるのでほめるのは簡単ではないかもしれませんが、そのほめたときの効果も高くなると考えられています。特に4信念価値観、5自己認識、6関係性といったレベルでほめることは「存在の肯定」につながり、大きな効果をもたらします。
かといってとはいえ、毎回最大上位レベルでほめるのはやりすぎ。る必要はありません。日常的な行動であれば、1環境、2行動、~3能力のレベルが最適適切です。繰り返しますが、これらのレベルでは、事実を単純に伝えるだけでOKです。そして高いレベルでほめるのは、「ここぞ」というときのとっておきにしましょう。サッカーでいうなら、わが子のチームが大会で優勝したときなどに、こんなほめフレーズをどうぞ。
「苦しくても頑張り続けて(信念)練習してきたんだよね(行動)。◯◯くんはチームに欠かせない存在だし(自己認識)、その頑張りで優勝できてみんな喜んでいるよ!(関係性)」
お子さんをポジティブな目線で見てあげましょう。「がんばっている」それだけでも100点満点です。そう考えれば、サッカー以外でもにも子どもの行動にはキラリと光るほめどころがたくさんあります。努力する力、周りとやまわりと協力する力、自己肯定力など子どもの精神面を健やかに育むためのツールとして、ほめフレーズを活用して、たくさんお子さんをほめてあげてください。
鈴木達也(すずき・たつや)
ヒューマン・コミュニケーション・センター代表。NLP(神経言語プログラミング)トレーナー。早稲田大学法学部卒業後、アクセンチュア株式会社に入社し、大規模プロジェクトの管理や上級管理職として社内採用人事などに携わる。それらのマネジメント経験を通し人の内的動機づけの必要性を痛感し、在職中からコミュニケーション手法やポジティブ心理学、脳科学などを学ぶ。現在はコンサルタント、コーチ、トレーナーとして独立し、セミナーや企業研修を行っている。プライベートでは小学生2児の父。著書「これだけ!ほめフレーズ」(すばる舎)
取材・文/小林博子 写真:田川秀之