■ネイマールの優れている点は、足技だけでなく身のこなし
おそらくですが、彼の意識は「どうプレーしたいか」にあると思います。「ボールをどう扱う」「足をどう動かす」というところにはなく、明確な目的の元に体を動かしています。体は自由なまま、イメージを実現させるために動かしています。だからこそ、この自由な動きを実現できるのです。サッカーを始めた時からこの自由さを身につけていたのではないでしょうか。ネイマールの足技のすごさに注目が行きがちですが、その足技を生み出している身のこなしに注視しても面白いかもしれません。
一方で、スランプに陥った時はどうなるかわからないですね。以前もお話しましたが、体がどう動いているかわからなければ、それができなくなったときに改善するのが難しくなります。体を動かす理論がわかった上でネイマールのようなプレーができるのが、イチローやダルビッシュだということです。
極端ですが、サッカー初心者のプレーとネイマールのプレーは違いますよね。では、何が違うのかと言えば、全体の動きのスムーズさです。初心者はボールを足で扱うこと自体が不慣れなもので、自然とボールに意識が集中してしまい、首は固まります。リラックスにはほど遠い状態です。一方でネイマールは、ボールを扱うときにはリラックスし、首が縮むようなこともありません。背骨が自由な状態にあり、それは全体が自由な状態にあることでもあり、相手からのタックルにも即座の対応ができるのです。
日本代表では、柿谷選手もいい状態ですね。あまり力を入れずにプレーできています。彼はトラップが上手い選手ですが、あれは身体全体でボールを抑えているからです。足だけではあそこまで完璧なトラップはできません。身体全体をバネにしているからこそできる技であり、それができるのも首が自由になって身体全体を自由に動かせるからです。「身体のバネがすごい」という表現も、実は首がキーポイントになっていると思います。
ただ、これは日本代表に限らずJリーグを観ていても感じることですが、ネイマールのように身体全体が自由になっている選手が、日本にはまだまだ少ないです。プロ選手ですから当然、一般人と比べると格段に身体の使い方はうまく、プレー中もリラックスできている時間が多いのですが、瞬間的に身体を固めてしまう場面があります。それが体幹や四肢に影響を及ぼして、プレーに大きな違いを生み出しています。そこが改善されると、日本にももっと質の高い選手が生まれてくるのかもしれません。
高椋浩史
大学時代は筑波大学蹴球部に所属。毎週少年サッカーの指導を行う中で、選手が伸び伸びと自分の力を発揮するためにはどのような指導をすればよいかということを探求し始める。卒業後は一般企業に就職するが、好きなサッカーに関わっていきたいという思いから退社し、筑波大学大学院に入学しサッカーコーチ学を学ぶ。日本サッカー協会の指導者養成コースの補助員を行い、日本のトップコーチ陣の指導を間近で見て学ぶ。2001年から2年間、青年海外協力隊員としてバングラデシュへ赴任。サッカーを指導する。そこで出会った人たち、特に肉体労働をしている人たちの身のこなしの美しさや強さ、精神的なたくましさ、人間的な器の大きさなどに衝撃を受ける。探求をしていたカラダの使い方のお手本のような人達をみて、自分もカラダの使い方を教えることができるようになりたいと思い、様々な身体鍛錬法やメソッドを学んだなかで最後に出会ったのがアレクサンダー・テクニークであった。2006年からはBODYCHANCE教師養成コースで学び始め、2010年に認定を受け教え始める。2012年11月に吉祥寺にアレクサンダー・テクニーク教室FUN!を設立、現在に至る。
取材・文:中村僚 写真:田川秀之