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周りを「見ろ」より「眺めろ」。身体の緊張をとる言葉選びとは

公開:2014年10月24日 更新:2023年6月30日

キーワード:アレクサンダーテクニーク声掛け

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■ボールを「奪われるな」ではなく「奪われてもいい」

高椋:村松の話を聞いていると、やはりコーチや周りの大人の見る目を鍛えることが大事なのかなと感じる。
 
村松:前述のチームはコーチに見る目があるのかもしれない。一人ひとりの選手へのアドバイスをすごく大切にしている。個別にアドバイスするのがうまいのかもしれない。そのチームの代表は「一人ひとりの改善ポイントを見る目が養われている」と言っていた。練習メニューは全部教えてくれるし、見させてくれる。でも、同じことを実践しても、(彼のチームの選手は化けるけど)ぼくのチームの選手は化けない。(苦笑)
 
サッカーの指導では、緊張させるような指導やトレーニングが多いのかもしれない。首の緊張が増えるアプローチをしていて、そこから改善しようとするから、緊張ありきの動作になっている。じゃあ、緊張しない方法を小さいころからどう養えるのか。もしくは、固くなってしまった選手をどう解きほぐすのか。
 
ぼくの指導の中で「ボールを奪われてもいい」という言葉を使うことがあるけれど、これには手ごたえを感じている。「いや、全然奪われていいから。ただ、奪い返しに行かなかったら怒るからね」って。そうすると、選手たちは心に余裕を持つことができる。だって、ボールを奪われることはミスではなくなり、ボールを奪い返しに行くか行かないかがミスかそうじゃないかの分かれ道になるわけだから。逆に、「ボールを取られるな!」とコーチや周囲の大人が言ってしまうと、選手はボールを奪われることを恐れるようになってしまう。そして「絶対取られちゃいけない」と思った瞬間に、選手は過緊張になって身体がしなやかに動かなくなり、結果的にさらにボールを奪われやすくなってしまう。
 
身体の緊張を和らげたり、リラックスできる言葉の影響はすごく大きい。選手がリラックスできそうな言葉を掛けてあげれば、楽しそうな雰囲気になり、身体から余計な力が抜ける。どんどんチャレンジするし、いいプレイも続出する。もちろん、チャレンジする分どんどんボールを奪われるわけだけど、取り返せばいいだけのこと。
 

■周りを「見ろ」ではなく「眺めろ」

高椋:なぜ緊張するのか。それは「蹴る」と思った瞬間に、いままで身体が積み重ねてきた習慣が自然と起こってしまうから。その習慣を壊していくのが第一歩かな。たとえば「見る」こともそう。その言葉を使うだけで、選手に緊張が伝わる。
 
言葉の持つ不思議さだね。「見る」は真剣なまなざしでしっかり見ること。一方「眺める」はリラックスしながら広い範囲をぼんやりと見ること。その印象が生活の中で刷り込まれている。「見ろ」って言われるとしっかり見て、「眺めろ」って言われるとぼんやり見る。言葉によって印象が違い、その言葉で目の使い方が違うから、体の使い方も変わる。
 
「首を振れ」もあるよね。「首を振って後ろを見ろ」と言うと、首を振ることだけやってなにも見えていない。たとえば、よく見かける3人組でおこなう首を振るトレーニングメニューがある。A,B,Cの3人が縦一列に並び、AとBがパス交換をしている間にCがグー、チョキ、パーのどれかを出して、それをパスを受ける選手が確認するという練習。これも何を出されたかを見るために首を振るんだけど、一定の距離で出されたものを見るトレーニングだから、視野を狭めて特定のものを「見る」トレーニングになってしまっているかもしれない。けど、実際のサッカーの試合では、視線を向けることが事前に決まっているケースはほとんどないため、視野は狭めるよりも広げたほうがいい。
 
村松:バルサスクール現地校で指導していたときには、レンズの下のほうを黒く塗ったゴーグルをつけて二人組でインサイドパスをさせていたことがあった。このゴーグルをつけると、仲間がボールを蹴る瞬間は見えているけど、ボールが自分に近づくにつれて途中から見えなくなる。でも蹴った瞬間からの軌道でおおよその予測がついて蹴れる。ボールを直視するために首を下げると視野が狭まるから、周辺視野で足元のボールを確認して蹴れるようにする練習。この経験をさせてあげると、ほとんどの選手は首を下げて足元のボールを見る必要性を感じなくなり、周辺視野を使ってボールを認識することを学んでいく。そして、ボールをしっかり見なくてもプレーできるようになる。
 
高椋:「見る」ことに頼らなくてもボールは蹴れる。その証明にはなるね。ピッチでどれくらいできるか分からないけど使えそう。
 
 
「集中しろ」の矛盾。サッカーは意識を分散させるスポーツである>>
 
 
村松尚登
1973年生。千葉県立八千代高校卒。筑波大学体育専門学群卒。指導者の勉強のため1996年にバルセロナに渡る。2004年にスペインサッカー協会の上級コーチングライセンス(NIVEL 3)を取得。2005-06シーズンにはスペインサッカー協会主催の「テクニカルディレクター養成コース」を受講。この12年の間にバルセロナ近郊の8クラブで指導に携わり、2006-07シーズンよりFCバルセロナのスクールにて12歳以下の子供達の指導に従事。2009年9月から2013年2月までFCバルセロナのスクール福岡校(※正式名称はFCBEscola Fukuoka)の指導に従事。2013年3月、水戸ホーリーホックの下部組織のコーチに就任。著書に『スペイン代表「美しく勝つ」サッカーのすべて』(河出書房新社)、『スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか』(ソフトバンク新書)など。
 
高椋浩史
大学時代は筑波大学蹴球部に所属。毎週少年サッカーの指導を行う中で、選手が伸び伸びと自分の力を発揮するためにはどのような指導をすればよいかということを探求し始める。卒業後は筑波大学大学院に入学しサッカーコーチ学を学ぶ。2001年から2年間、青年海外協力隊員としてバングラデシュへ赴任。サッカーを指導する。そこで出会った人たちの身のこなしの美しさや強さ、精神的なたくましさ、人間的な器の大きさなどに衝撃を受け、カラダの使い方を教えることができるようになりたいと思い、2006年からはBODYCHANCE教師養成コースで学び始め、2010年に認定を受け教え始める。2012年11月に吉祥寺にアレクサンダー・テクニーク教室FUN!を設立、現在に至る。 
スポーツが上手くなる姿勢レッスン/COZY アレクサンダー・テクニーク
 

 

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取材・文/中村僚 写真/田川秀之

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