川邊監督自身にも、変化がありました。

「試合に入る前に『やれるところまでやって来い』というような声かけで送り出すと、選手はいい精神状態でピッチに入れているように感じます。よくないプレーに対しても、今までだったら不調の理由も知らずに怒鳴り散らしていたかもしれないですが、今はあえて何も言わないこともあります。そういうところはプラスになっていますね」

21歳の若さでスフィーダ世田谷を設立し、10年以上にわたって女子選手を指導している川邊監督。しかし生理の問題に真剣に向き合うようになったのは意外にも、３月のセミナーを受けてからでした。

「生理中に腹痛がある選手がいることは知っていましたし、それでプレーに影響は出ないのかと興味は持っていたんです。付き合いの長い選手に『生理はコンディションと関係するの？』というようなことを聞いたこともありますが、『関係ないです』と答える選手がほとんどだったので、それなら大丈夫なんだと思っていました」

「大丈夫です」の言葉の裏には、いくつかの理由があると考えられます。選手自身の無自覚、生理中の不調を理由にメンバーを外されることへの恐怖、男性指導者に体のことを知られる恥ずかしさ...。

これらのような言葉の真意を読み取れず、「大丈夫だろう」程度の認識しか持っていない男性指導者が未だ多いのではないかというのが、川邊監督の考えです。

「現場のスタッフは男性がほとんどですし、生理の問題に対して相当疎い業界だと思いますよ。我々のような取り組みをしているチームは聞いたことがありませんし、大半は未だに『痛みなんて気合いでカバーしろ。みんな生理があるなら平等だろう』と考えているのではないでしょうか。不調の種類やその大小がそれぞれだということも、理解していないと思います。本来ならばスタッフと選手たちが話し合えるような環境を作らなければいけないのですが、学校で性教育を男女別々に行うせいで、『触れちゃいけないこと』という感覚が小さいころから植え付けられていることは否めません」

女性が初潮を迎えるタイミングは、読者のみなさんが普段から目にかけている小学校高学年から中学生までが最も多いと言われています。初潮を迎えてから数年は周期が安定せず、痛みや不快感などを強く感じる人も少なくありません。

思春期真っ盛りの多感な年頃でもあるため、男性がアプローチするのはさらに大変です。スフィーダ世田谷でユースチームを指導する楠本洋之コーチも、「付き合いが長くて関係性のある選手であっても、安易には踏み込みづらい」と心情を打ち明けてくれました。

それでは、一体どうしたらいいのか――。川邊監督が２つ、ヒントを提示してくれました。

「勉強することですね。といっても難しいことでなくていいんです。私のようにセミナーに参加するだけでもいいかもしれません。まず、指導者が女性を理解しないと何も進みません。同時に、選手たちも同じくらい正しい知識を持つことが大事だと思います。今回セミナーを受けるまで私も知らなかったことが多かったように、選手も多かったようです。『パフォーマンスの不調を生理のせいにしたくない』という考えの選手は、その時点で自分のことを分かっていないわけですから」

もう一つは、女性に協力をお願いすることです。「勝利」という至上目標があるプロチームならいざ知らず、相手は思春期の子どもたち。男性からあまりにもグイグイとアプローチすると、不快感を強めてしまう可能性が非常に高いです。若いOGや女性スタッフ、母親、保健室の先生などに間に立ってもらうことで、スムーズな連携を取ることも可能かもしれません。

川邊監督は、最後にこんなメッセージをくれました。

「選手も指導者も恥ずかしがらず、ともに学ぶ姿勢が大切なのではないでしょうか。お互いに歩み寄ることが、問題を解決する唯一の方法だと思います。女子選手には男子とは違う指導法があるように、体の扱いも違う。そのことを指導者や保護者が正しく理解することが大切です」

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