健康と食育
「流した汗の数だけうまくなる」はウソ?成長期の"練習しすぎ"は得るものより失うものが大きい
公開:2015年3月19日 更新:2020年3月24日
トレーニングも大切だけど、休むことも同じくらい大切らしい?
休むことの大切さが日本でも考えられるようになってきました。毎日の練習は本当に子どもたちのためになるのでしょうか?今回サカイクでは米大リーグ・マリナーズでトレーナーを務め、WBC日本代表の帯同トレーナーとしてサムライジャパンの世界一に貢献した森本貴義トレーナーに「休むことの効果とその必要性」についてお話を伺いました。
イチロー選手をはじめ、大リーグのトップ選手、サムライジャパンの選手たちのほか多くのトップスリートの身体を診てきた森本トレーナーは、子どもたちにこそ休息が必要だと言います。(取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部)
(イチロー選手をはじめ、世界のトップアスリートの身体を診てきた森本トレーナー)
■なまけ?サボり?練習を休むと下手になる?
「今日は練習に行きたくない!」
あなたのお子さんがこんなことを言ったらどうしますか?
「そんなこと言わないで行きなさい!」「自分で決めたことなんだから続けなさい!」条件反射的に口から出てしまう言葉。お父さんお母さんはもちろん正しいのですが、子どもたちは"なぜ?"練習を休みたいのでしょう。
サッカーの上達にはトレーニングが欠かせません。『練習は嘘をつかない』『流した汗の数だけうまくなれる』・・・・・・。
サッカーだけでなく昔からよく言われているこうした言葉に異論を挟む人は少ないでしょう。もちろん努力することは何よりも大切なのですが、実際にはただがむしゃらに「毎日」「長時間」「がんばって」練習をするよりも、適度な休息を挟んで練習をする方が高いトレーニング効果を得られることがわかっています。
「日本のトップ選手は競技にかかわらず、ほとんどと言っていいほどオーバーユース、オーバートレーニング、つまり"練習のしすぎ"でどこかに故障を抱えながらプレーしています」イチロー選手など数々のトップ選手をみてきた森本貴義トレーナーは、日本のスポーツに対する取り組み、考え方から来る練習のしすぎには問題があると言います。
■"練習のしすぎ"による弊害
「野球を例にとると、中学生までは世界トップ。日本特有の長く厳しい練習で、主に技術面で優位に立っています。でもその後はフィジカルに問題を抱えながらトレーニングをしているので選手は伸びていきません」サッカーでも小学生年代まではスキルで上回り結果を残していても、スピードや持久力といったフィジカル要素の勝負になる年代では通用しなくなるケースがよく見られます。森本さんはどのスポーツも現状は「もともと身体の強い選手が生き残る練習をしているだけ」だと言います。
「野球のドラフトでは『サボっている選手を獲れ』なんて言葉が聞かれるくらいで、小中高で練習を真面目にやっていた選手はほぼ身体に何らかの問題を抱えています。身体が回復していない状態で練習をしても思うようなトレーニング効果は得られません。日々の練習は良いインプットをするために行うもの。良いインプットができなければ良いアウトプットはできないのです」
森本さんは練習をインプット、その結果として発揮されるパフォーマンスをアウトプットと表現します。良いインプットのためには適度な、質の良い休息を取ることもトレーニングに含まれる大切な要素だと言います。「特にサッカーは走ってボールを蹴るという動作が中心で、常に心肺機能と足に負荷がかかるスポーツです。この動きを週に何回も行うことで運動機能障害に対するリスクが高まるのです」
■ひとつの競技に集中する日本は特定箇所を痛めやすい
森本さんがトレーナーとして活躍したアメリカでは、子どもたちがひとつの競技だけを集中して行うことはありません。小中学生は3つから4つの競技を掛け持ちでプレーして、高校生も2つ以上、大学やプロレベルでも複数の競技を並行して行う選手が少なくありません。
「アメリカではローテーションでスポーツを行うので、特定の箇所に負荷がかかりすぎることはありません。日本では早くからひとつの競技"だけ"をプレーすることが良いとされているので、特定の故障を引き起こしやすいという事情もあります」
子どもたちの運動能力を高めるためには早いうちから取り組むのは良いのは間違いありませんが、ひとつの競技に絞るより、いろいろな競技にチャレンジする方が、動きの多様性を身につける観点や将来の運動障害、故障を防ぐ意味でも有効なのです。森本さんはケガについての認識についても、日本ではまだ十分に理解されていないと言います。
「練習のしすぎでケガのリスクが高まることはわかっていただけるとおもいますが、ケガをすることで上達度、成長の速度が大きく変わってしまいます」痛みを持ってプレーする選手は本人が「プレーできる」と判断する痛みであったとしても痛みをかばうような動き、「代償動作」と呼ばれる動作を知らず知らずのうちにしています。この動きが選手のプレーに悪影響を与え、悪いクセが付いたり、いままでできていたなんでもないプレーができなくなったりしていくのです。
成長期の子どもたちは、オーバートレーニングによって得るものより多くものを失っています。小学生のときはずば抜けたテクニックを持っていた選手が、年齢を重ねるごとにぎこちないプレーをするようになり、むしろ下手になっていくようなケースは「早熟だった」わけでも「才能がなかった」わけでもなく、ケガによる身体や感覚の変化に答えがあることもあるのです。こうした問題から子どもたちを守り、本来できるはずのプレーを続けさせてあげるためにはどうしたらいいでしょう?
どこまでやったらオーバートレーニング?休むって具体的にどうすればいいの?疑問は尽きませんが、この問いに対する森本さんの解答は次回。まずはひたすらに身体を酷使し、練習に励んでも、選手寿命を縮めたり、本来できるはずのプレーやパフォーマンスを発揮できなかったりするリスクがあることを知ることから始めましょう。
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森本貴義
(元シアトル・マリナーズ アシスタント・トレーナー)
米大リーグ・マリナーズでトレーナーを務め、WBC日本代表の帯同トレーナーとしてサムライジャパンの世界一に貢献。イチロー選手をはじめ、世界のトップアスリートの身体を診てきた森本トレーナーは、子どもたちにこそ休息が必要だと話す。著書に「一流の思考法 」「プロフェショナルの習慣力」(ソフトバンク新書 ) 「カラダ×ココロ改善計画」(PHP研究所) など。