「サッカーは足を使うスポーツなので、やはり下肢のケガが多くなります。
「ケガに対してはじめにどんなケアをするかがとても重要です。子どもたちのプレーや将来にも大きな影響を与える可能性だってあるのです」
少しドキッとする言葉ですが、スポーツとケガ、ましてや成長段階の子どもたちにとっては、ケガとの向き合い方は何よりも大切なことです。
Jリーグ・サンフレッチェ広島、アビスパ福岡などでトレーナーを務めた経験を持つ、了德寺大学健康科学部の野田哲由教授は「危険なのは痛みや腫れだけではない」と注意を促します。
今回は主にお父さんお母さんが知っておくべきケガへの対処方法とその考え方を、ケガに効果的な「自分で巻ける」セルフテーピングの動画を見ながら野田先生にレクチャーしてもらいましょう。(取材・文 大塚一樹)
■「痛みや腫れが引けば大丈夫」は大間違い!
「ケガへの対処でいちばん間違えて欲しくないことは“痛み”や“腫れ”という目に見える症状が引いてもそれで“治った”ことにはならないと言うことです」
野田先生は多くの子どもたちが、痛みや腫れが引いた段階で治ったと判断して練習に復帰し、結果的に選手生命を縮めるようなケガの再発、慢性化を引き起こしていると言います。
「子どもたちは早くプレーしたいと言うのが当たり前だと思いますが、保護者やコーチは痛みや腫れが引いてからも傷害は残っていること、痛みがないから治ったという考えは間違いだという知識を持って判断して欲しいと思います」
たとえばサッカーではよく起こる足首のねんざ。ひねったり伸ばしたりした直後は痛みもあるし、しばらくすると腫れてきます。このときは本人も周囲も「安静に」と思うのですが、痛みや腫れが引くと「もういいかな」とボールを蹴りたくなってしまいます。
野田先生によるとねんざの場合は痛みや腫れが引いてからも数週間、最低でもケガをしてから足首のじん帯が完治するまで4週間はかかるとのこと。
「このタイムラグに気がつかず、慢性的なねんざ状態になる子どもたちが多いのが事実です」
実際に野田先生が関わったJリーグ新入団選手のメディカルチェックでもほとんどの選手が足首のじん帯が「ゆるゆる」な状態で、「もっと正しいファーストエイドができていれば」と思うことがあったと言います。
■応急処置の意味と重要性
「ケガが起きてすぐに何ができるか、その対処法で予後(その後の見通し)や経過が大きく変わります」
骨の柔らかい子どもたちの場合はたとえねんざであっても、アメが曲がるように変形する若木骨折や筋肉の瞬間的な収縮で発生する剥離骨折が疑われる場合もあります。特に若木骨折は大人に比べて折れにくく、柔らかい骨を持つ子どもたち特有の骨折ですので注意が必要です。
基本的には整形外科などでレントゲンを撮るのが安心ですが、応急処置(RICE処置;R安静、I冷却、C圧迫、E挙上)つまり、ファーストエイドで何をするかが重要になります。
上の動画は足首のねんざ予防に対して自分でもできるセルフテーピングです。「専門的なことはちょっと」というお父さんお母さんも、この通り動画を見ながらやれば、正しいケアできます。
「切り傷ができたときにどうしますか? まずは血を止めるために圧迫すると思います。それと同じで、ねんざなどのケガをした際には見た目に出血をしていなくても、内出血を起こしているのです」
内出血を抑えるために圧迫をする。そのためにはテーピングが有効です。
「圧迫をして内出血を抑えるのです。テーピングの上からアイシングをするとさらに効果的でしょう」
野田先生によれば家庭にある氷嚢や氷を包帯などの上から当てるアイシングも十分効果的だとか。クーラーボックスに入った氷を試合に持ち込むチームも増えていますが、0℃で溶ける氷は、アイシング専用の保冷剤(アイスノンなど)よりも凍傷が起きづらく、初心者にも利用しやすいそうです。
スポーツをしているときは激しく体を動かしています。練習中や試合中のケガは体温が上がっている状態で起こるもの。このとき、子どもたちの身体の中では血液がめまぐるしく行き来しています。
「運動中のケガは血流が多い状態で起きます。だからこそ、すぐに圧迫し、冷やして内出血を防ぐことが重要です」
太ももの肉離れや打撲も同じように圧迫することが重要です。
痛い箇所を中心に動画のようにケガをした部分を圧迫することを意識して巻いていきましょう。
「肉離れや打撲は内出血部分が鬱血し、ひどい打撲になると手術が必要な“コンパートメント症候群”という状態になることもあるので、十分に注意が必要です」
応急処置のあとは、医療機関を適切に受診しましょう。