健康と食育
ヘディングって本当に危険なの!? アメリカの"10歳以下はヘディング禁止!"について専門家に聞いた
公開:2016年4月 1日 更新:2021年1月27日
昨年末、こんなニュースが一部で話題を呼びました。
このCNNの報道によると、アメリカサッカー協会は、2015年11月、10歳以下の子どもはヘディング禁止、11~13歳の子どもにも練習中のヘディングの回数に制限を設けることを発表したというのです。
この「ヘディング禁止令」の対象となったのはアメリカサッカー協会傘下のユースナショナルチームやアカデミーに所属する男女。300万人と言われる全米のユースサッカー人口の一部という報道のされ方をしていますが、アメリカサッカー協会が脳しんとうへの危険性を問題視していることは紛れもない事実です。
このニュースに接して、「日本でもヘディング禁止にすべき」という意見から、「へディングなしではサッカーが成り立たない」という意見まで、さまざまな反応が見られました。
「ヘディングは本当に危険なのか?」
サッカーをプレーする子どもを持つお父さんお母さんの気になる疑問に、ラグビー、アメフトのプレー経験を持つ現役アスレティックトレーナーで、スポーツ選手における脳しんとうの研究も行っている熊崎昌さんにお聞きしました。(取材・文 大塚一樹)
■"ヘディング=脳への損傷"という認識は間違っている
――まずは、ヘディング禁止令をお聞きになっての率直な感想を教えてください。
すごいニュースだなと思いました。脳しんとうに対する啓発活動については大事だと思いますが、このルール自体は否定的な見解が多いと思いますよ。
――親にとっては一大関心事だと思うので単刀直入に聞きますが、ヘディングは危険なのでしょうか?
練習や試合で頻繁に脳しんとうが起き、その対策も進んでいるラグビーやアメリカンフットボールといった接触プレー前提のスポーツと比べて、サッカーをプレーしている最中の脳しんとうの発生率が実際より少なく評価されているのは事実だと思います。サッカーのプレー中でもヘディングに関わるプレーで脳しんとうを受傷するケースが3分の1を占めるというのも事実ですね。
――では、やはりアメリカの取り組みは正しいのでしょうか?
勘違いしてほしくないのは、ボールを頭でヒットするヘディングが、脳に深刻なダメージを与えるとか、子どものころからヘディングを繰り返すことで脳にダメージが蓄積されて何か問題が起きることが証明されているわけではないということです。ヘディングのダメージを証明したという論文にも目を通しましたが、はっきりとそう言い切れるほどの研究結果とは思いません。
■ボールの衝撃ではなく、人体同士がぶつかることで脳しんとうになるケースが圧倒的多数
――それでも、ヘディングで脳しんとうが起きるケースが多いんですよね?
ヘディングでの受傷と言っても、ボールが頭に当たってというケースよりも、ヘディングで競り合いに行った選手同士が頭をぶつけたり、ヒジやヒザといったボール以外が頭に当たったりといったケースの方がはるかに多いんですよ。
――なるほど。それもヘディングでの脳しんとうにカウントされるわけですね。
そうなんです。私自身サッカーの専門家ではないのですが、アメリカサッカー協会の「ルールでヘディングを禁止する」というやり方で疑問なのは、ヘディングを禁止してもハイボールやそれを奪い合うプレーというのはなくならないわけですよね? そのときどうやって安全にプレーするのでしょうか。
――ハイボールに対して安全にアプローチする方法が「正しいヘディング技術」ということも考えられますね。
そうなんです。サッカーのルール自体は変わらないし、年齢による制限がなくなればヘディングをしなければいけないのに、ヘディングというプレー自体を禁止してしまうのは、脳しんとうを未然に防ぐという目的に対して効果があるのかという点と、ヘディングが必要なプレーがなくなるわけではない、それに対処できないのではないかという点で心配です。
ニュース記事では、今回の規定が2014年にサッカーをする少年少女の母親たちとサッカー選手がFIFA(国際サッカー連盟)やアメリカサッカー協会などを相手に起こした裁判がきっかけとなったと報じています。たしかに母親の立場からすれば「疑わしいなら禁止を」と願う気持ちも理解できます。アメリカでは、アメリカンフットボール最高峰・NFL(米・ナショナル・フットボール・リーグ)の選手たちが脳震盪や脳へのダメージによる後遺症で悩むケースが大きな話題になり、ウィル・スミス主演で映画化されるほどの社会問題になっています。複数競技を並行して行うことが当たり前のアメリカでは、サッカーは「すべての競技のベースとして子どもが最初にはじめる安全なスポーツ」として人気が高く、こうしたイメージを維持するために極端なルールを打ち出したとの見方もあります。事実、この映画『Concussion』の公開は、アメリカサッカー協会の発表とほぼ同時期だったのです。
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取材・文 大塚一樹