健康と食育
暑熱順化できていない大人の方が要注意! ビールがおいしい夏に気を付けたい熱中症対策
公開:2021年5月20日
気温が上がり始める、5月頃から気をつけたい熱中症。子どもたちは普段から外で練習し暑さに慣れていきます。最近はチームでも熱中症予防の意識が高まり、子どもの熱中症予防には様々な対策をしているところが多いですよね。
一方で大人は、在宅やオフィスなどでエアコンの効いた室内で働き、運動不足、残業などで寝不足や仕事の後の飲酒など、疲労回復や体調管理が子どもたちよりできていないという状況もあります。暑熱順化できていない分、子どもたちより熱中症に注意しなければなりません。
サッカーをするお子さんだけでなく、保護者も暑さから身を守るための知識をつけ、準備をしておきましょう。
「熱中症予防 声かけプロジェクト」実行委員であり、筑波大学体育系准教授の渡部厚一さんに聞く「大人のための熱中症対策」。今回はお酒が熱中症に及ぼす危険性、高齢者におすすめの対策をうかがいました。
(取材・文:鈴木智之)
<<前編:実は大人の方が危険!? 「大人ならではの事情」で熱中症にならないために知っておきたい正しい熱中症対策
■汗をたくさん書いた状態でいきなりビールを飲むのは危険
夏はビールの美味しい季節。普段よりも、アルコールの摂取量が増える人も多いのではないでしょうか。渡部さんは言います。
「熱中症に限らず、スポーツ活動中の大人の死亡事故の原因の一つに『体調コントロール』があります。睡眠不足でスポーツをしたり、前夜のお酒が体に残ったまま運動をしたり、暑い中に長時間いるなど、体調が良くないまま活動し、不測の事態に陥るケースです」
なかでもお酒が及ぼす影響は大きいそうで、「水難事故など、夏に起きる事故の多くに、お酒が絡んでいます」と話します。酔っ払った状態で海に入ったり、BBQをして、酔っ払って川に入って流されるなど、危険な環境は身近にあります。
「お酒を楽しく、美味しく飲むのはいいことですが、量をコントロールするのと、お水などでアルコール以外の水分をしっかりととることが大切です。夏の暑いときは、たくさんの汗をかいて、体内から水分が失われているので、おしっこの色が濃くなっています。その状態でお酒を飲むと、血中アルコール濃度が高まるので注意が必要です。泥酔しやすくなってしまいます」
夏の暑い時期は、お酒の前に水や電解質(イオン:ナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどミネラルのこと)を含んだ飲料を飲み、体内にしっかりと水分を取り入れてから、ビールなどアルコールに口をつける。これは熱中症対策だけでなく、体調管理の観点からも覚えておいた方が良さそうです。
「日中、暑いところにいて、室内に戻ってきて飲むビールは美味しいですよね。喉が乾いた状態で飲みたい気持ちはわかりますが、理屈から言うと、脱水の状態で飲むことになるので、体に負担がかかる場合もあります。まずはチェイサー代わりとして、水で体内を潤してからのほうがいいと思います」
■飲酒は脱水になりやすい! 遅くまで飲んだ次の日は普段より多く水分を摂ろう
また、「お酒には興奮作用、利尿作用があり、脱水になりやすい」と注意をうながします。
「前夜にお酒を飲み、翌朝に寝不足&脱水の状態で炎天下で活動すると、熱中症になるリスクが高まります。前夜に深酒した翌朝は、普段よりも多く水分をとるなどして、とくに気をつけてください」
ほかにも気をつけたいのが「高齢者の熱中症」です。サッカー観戦時だけでなく、エアコンをつけていない室内で熱中症になるケースも増えており、注意が必要です。
「まず、お年寄りは喉の乾きを感じにくく、体内の水分量も、年齢を重ねるにつれて少なくなっていきます。ほかにも、糖尿病などの持病をお持ちの方は脱水になりやすい傾向にあります。おしっこが出やすいので、体が乾きやすく、脱水や熱中症になりやすいのです」
■電解質を含んだ飲料をこまめにとって
子どもや体力のある成人であれば、暑さに慣れる「暑熱順化」も必要ですが、活動量の少ないお年寄りにそれを望むのはむずかしいので、渡部さんは「室内にいるときはエアコンをつけましょう」とアドバイスを送ります。
「高齢者の中には『なるべくエアコンはつけない方が良い』とお思いの方もいらっしゃるようですが、現代の暑さをエアコンなしで乗り切るのは、体調管理の観点からも危険と言わざるを得ません。ですので、暑さを感じたらエアコンをつけること。そして電解質を含んだ飲料をこまめにとることですね」
同様に、試合観戦に向けては、軽装を心掛け、帽子をかぶり、会場では子どもたちを間近で見たくなる気持ちもわかりますが、なるべく屋根のある日差しの当たらない風通しの良い場所を選ぶよう心がけてください。これは高齢者だけでなく保護者の皆さんも一緒です。
■牛乳も熱中症予防に効果的
さらに渡部さんは「牛乳を飲むのもいいですね」と教えてくれました。
「牛乳には水分だけでなく、タンパク質や糖質などがバランスよく入っていて、血液中の水分を保ってくれます。高齢者の方は牛乳を飲んで、熱中症を予防するのがいいと言う先生もいるほどです」
朝食時にパンと一緒に牛乳を飲む。これも熱中症対策の朝のルーティンとして取り入れてみるのもいいかもしれません。
「外出するときは、体から汗を出すことが大切ですので、放熱をうながしやすい服装をしましょう。風通しの良い軽装で、日光を遮るために日傘を差したり、帽子をかぶるのもいいですね。サングラスは熱中症予防というよりも、紫外線から目を守る効果があります。服装や持ち物は、日差しを遮り、風を通すものを選んでもらえたらと思います」
熱中症は気温が上がり始める、5月初旬から中旬にかけてが、最初の注意時期です。体が暑さに慣れていない時期なので、普段以上に対策を万全にして出かけましょう!
渡部厚一(わたなべ・こういち)
筑波大学体育系准教授
筑波大学医学専門学群卒業後、筑波大学附属病院にて医師として勤務。筑波メディカルセンター病院や国立療養所晴嵐荘病院、国立病院機構茨城東病院を経て2012年より国立大学法人筑波大学 体育系に着任。筑波大学水泳部チームドクター。
スポーツドクターとして世界水泳選手権大会日本代表水泳チーム(2007)、夏期オリンピック大会水泳チーム(2012)帯同。2011年より「熱中症予防 声かけプロジェクト」の実行委員を務める。