FIFA女子ワールドカップ2011では全6試合に先発出場し優勝に貢献した安藤梢選手。ドイツでのインタビュー後編です。
――ご両親はどのように安藤選手をバックアップされていましたか?
「アドバイスはありましたが、『こうしなさい、ああしなさい』と押し付けるような言い方はしませんでしたね。私がサッカーを続けることに関してもすごく協力的でした。今でこそ女子サッカーの認知度や人気は高まりましたが、私が小さい頃は職業にするなんて考えられませんでしたし、周囲も『女子サッカーなんてやっていて……』と冷やかな雰囲気でした。そんな中でも、両親はいつも『やりたいことはやりなさい』、『頑張っていることを(継続して)頑張ってほしい』と応援し続けてくれました。周りの友達には進路を決める際に両親に反対されてサッカーをやめ、就職しなければならないという人もたくさんいたのに……。本当に感謝していますし、家族の支えがあったからこそ、私はここまでくることができたと思います」
――高校を卒業する際に大学でサッカーを続けることを選択したのはどうしてですか?
「高3の時になでしこリーグに行くか、それとも大学に進学するかを決める頃、なでしこリーグは女子の企業がどんどん撤退して、みんな働きながらサッカーをしなければならないという状態だったんです。そういうことも関係して、教員免許をとったり、将来のことを考えてどんな選択もできるようにと大学への進学を決断しました。でも、大学への進学を決断した一番大きな理由は、自分を成長させたかったから。高校生で初めて代表に選ばれアメリカ代表や欧州の選手と戦ったとき、彼女たちに比べフィジカルが劣っていることを痛感したんです。これでは世界では戦えない、あらゆる面で自分をもっと鍛えたいって。大学では体育の専門分野を学んだのですが、サッカーのために必要な、自分を成長させるために必要なあらゆることを学ぶことができましたね」
――大学に進学したことは安藤選手にとって1つ大きな転機になったと思いますが、安藤選手自身が感じた大きな転機は?
「本当にサッカーを辞めたいと思ったことはないのですが、初めてサッカーをやっていて苦しいなと感じたのは、大学で初めて代表から落とされたとき。高校生で代表に選ばれてからずっと呼ばれ続けていてプライドもあったので、本当にそれはショックでした。せっかくみんながアドバイスをくれたり、励ましてくれたりしても、なかなか聞き入れることができなかった(苦笑)。それでも、『また頑張ろう』と声をかけ続けてくれた仲間たち。その声が本当に大きかったですね。多少立ち直るのに時間はかかりましたが、自分の中でも『このままでは終われない』、『もう一度代表に選ばれて、世界に出たい』という気持ちが芽生え、それが次第に『やってやる』という強い信念にかわっていきました」
――やはり代表への思いは強い?
「そうですね。代表選手に選ばれたいという気持ちは強いですし、そのためにもクラブでしっかりと結果を出して、成長して。代表でまた世界と戦いたいですね」
――現在、ドイツ1部・デュイスブルクでプレーしていますが、海外でのプレーを決断したのは?
「高校生の時に出場した99年女子W杯アメリカ大会では、女子の試合にも関わらずスタジアムが満員で、スター選手もいて、たくさんの小さな女の子がサッカーをしているという現実を目の当たりにしたんですが、それまでそんな世界を見たことがなかったのですごく衝撃を受けて。それ以来、こういう舞台でプレーしたいと思うようになりました。また、00年から3年間、澤穂希さんがアメリカ・WUSAのアトランタ・ビートでプレーしていましたが、その姿にも刺激を受け、「いつか澤さんのようになるんだ」と憧れを持つように。自分の中ではずっと“女子サッカーはアメリカ”という思いがあったんですが、移籍を考えたタイミングはちょうど女子の欧州リーグができるタイミングで、しかもドイツにもしっかりしたリーグがあるんだということも知り、やはりサッカーを学ぶならヨーロッパかな? とドイツに来ることになりました」
――移籍当初は日本との違いに戸惑うことも多かったのではないですか?
「フィジカルが強くて、サッカーのスタイルも日本とは全く違って……それはもう衝撃的でした。でも、ドイツのチームに移籍して良かったなと思っています。サッカーそのものはもちろん、サッカー文化が根付いているドイツで学ぶものは本当に多いですから」
――大変だったことは?
「やはり言葉ですね。毎日練習があるのでサッカー用語は一番早く身に付きましたが、それをクリアしたらまた次の壁にあたるんですよね(笑)。こっちが少し話せるようになったとわかると、相手はたくさん話をしてくるのでわからなくなってしまって。でも、そういうのも含めて、うまくいかない面もありますが、何事においても自分の責任においてやらなければならないのですごくメンタルは強くなったと思います」
――さて、これからの安藤さんの夢は?
「これは小さい頃から変わらず追っている夢ですが、世界のトップの選手になることです。もっと成長して一流のプレーヤーになりたい。2012年はロンドン五輪があるので、そこでもう一度金メダルを取って表彰台に立ちたいという思いも強いですね」
――W杯での金メダルはまだまだ通過点?
「W杯で優勝したことはすごいことだと思います。でも、アメリカに勝ったのもドイツに勝ったのも、あのW杯の時が初めてで、実はまだ1勝ずつしかしていないんです。これから勝ち続けられるかどうか、それができれば本当の力がついたということだと思います。なでしこのサッカーはもっともっと成長できると思うので、チャレンジャーの気持ちでこれからも戦っていきたいですね」
――では最後にジュニア世代の選手たちへメッセージをお願いします。
「サッカーをやっていく中でうまくいかないことはたくさんあると思いますが、そういう時こそ『乗り越えたときに成長できる。これはチャンスだ』と捉えて頑張ってください!」
安藤 梢//
あんどう・こずえ
FW・MF。1982年7月9日生。栃木県宇都宮市出身。ドイツ女子ブンデスリーガ・FCR2001デュイスブルク所属。2002年にさいたまレイナスFC(現:浦和レッドダイヤモンズ・レディース)に入団。その後、ドイツのFCR2001デュイスブルクへ移籍した。日本代表では、アテネ、北京と二度オリンピックに出場。FIFA女子ワールドカップにも2007、2011大会に出場し、優勝した2011年の第6回大会では全6試合に先発出場している。
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取材・文・写真/石井宏美