今大会で22回を数えるメニコンカップ2016 日本クラブユースサッカー東西対抗戦(U-15)(以下メニコンカップ)が今年も開催されます。全国クラブチームからピックアップされた選手たちが『ALL EAST』と『ALL WEST』に分かれて戦う中学生年代(15歳以下)のオールスター戦は、小学生にとってもぜひ参考にしたい試合のひとつです。
海外クラブやJリーグで活躍するプロ選手を数多く輩出してきたメニコンカップ。
今回は観て勉強になる、観戦してサッカーへの理解を深めるトレーニングのヒントとして大会の見所、小学生も参考になる見方をアヤックスのU17~U19のアナリスト/パフォーマンスコーチを務め、客観的なサッカーの見方、分析方法を提示する白井裕之さんに教えてもらいました。(取材・文 大塚一樹)
■試合を見る前に大会の特徴、プレーする選手を把握する
「まずひとつ特徴的なのが15歳という年齢ですよね」
この大会を分析するに当たって、白井さんが前提として挙げてくれたのは、15歳以下のカテゴリーで争われる“年齢”という特徴でした。
「もうひとつの特徴は全国から選ばれた選手たちが普段とは違うチームでプレーすることです。この二つの特徴が大会を見るためのヒントになります」
白井さんはこの二つの特徴を意識して試合を観ることで、単に「あの選手がうまい」とか「速い」「ドリブルがうまい」「テクニックがある」と言った感想ではなく、自分のプレーの改善点や自分が15歳になるまでに何をしなければ行けないのかという発展的な視点が生まれると言います。
はじめにプレーする選手の年齢に注目します。メニコンカップは15歳以下の選手がプレーします。大会の見方として白井さんが指摘したのは「15歳はどんなプレーをしなければいけないか、何を目標にすべきか、それを観ることが大切」ということでした。
オランダでは、教育制度の違いから日本のように小学校(6年)、中学校(3年)、高校(3年)で区切るようなことはしませんが、ほぼ2歳刻みで年齢に応じた目標を設けているそうです。
■15歳のサッカー選手に求められること
表はオランダの2歳刻みの年齢カテゴリーごとの目標をあらわしたものです。
「チーム内でお互いの基本タスクの調整をする」ことが15歳のサッカー選手の目標になります。この表を見てもらえばわかるとおり、オランダでは徐々に段階を踏みながら個人からグループ、そしてチームでプレーすることを学んでいきます。U-13まででチームの中ですべきこと、自分の役割を学んだ選手たちは、15歳になるとチームの中でのお互いの役割を調整することを目標にしてプレーします。
耳慣れない言葉が出てきて混乱しているかもしれませんが、オランダの15歳のサッカー選手には自分の役割とチームメイトの役割をコミュニケーションを取りながら調整し合うことが求められるのです。
「この大会が選抜チーム同士であることからコミュニケーションがキーワードになる理由のひとつです」
普段一緒に練習しているクラブチームではなく、各チームからピックアップされた選手たちがぶっつけ本番ではないにしても、即席でチームを構成する。15歳という年齢と併せて、メニコンカップで観るべきポイントのひとつは「コミュニケーション」だと白井さんは言います。
「ジュニア年代ではチームの中での役割を知り、状況を認知してサッカーのアクションを実行することが目標になりますが、U-15になるとこれでは十分ではありません。チームを形成するためにはコミュニケーションを通して、選手個々のサッカーのアクションの実行を各選手がお互いに、調和(協調)させることが必要になります」
■コミュニケーション=コーチングや声がけではない
ここで重要なのが、コミュニケーションという言葉の意味です。サッカー分析の専門家である白井さんは、分析やチーム内のコミュニケーションのためには言葉の意味を正確に共有することが重要だと言います。そこで問題になるのが「コミュニケーション」という言葉の意味です。
「メニコンカップでは選手のコミュニケーションに注目しましょう」
こう言われて、あなたはどんなシーン、プレーに注目するでしょう?
白井さんの定義するコミュニケーションは、日本で一般的に使われる「お互いが声を掛け合ってコーチングをし合う、意思の疎通を測っている」という意味とは違います。
「ここで言うコミュニケーションはチームレベルでのインサイトであり、チーム戦術を指しているのです。インサイトとは日本語に置き換えると洞察力のことで、味方の選手がどう関わって動いているか、どう動けば良いのかを観察できていることが重要です」
白井さんによればオランダで「コミュニケーションレベルが高い」という状況はコーチングができている、声が良く出ているというレベルの話ではなく、チームとしての約束事がしっかり決まっていて、選手同士がそのプレーを実現するための動きを把握している状態を指すそうです。
「コミュニケーションはクラブチームの方が円滑になります。メニコンカップは選抜チームですので、その条件の中で選手たちがどういう風にコミュニケーションを高めようとするかに注目すると良いでしょう」
今回メニコンカップの分析をお願いするに当たって、白井さんには事前に昨年の大会の様子を映像でチェックしてもらいました。コミュニケーションという観点から良かったプレー、改善すべきプレーをひとつずつ挙げてもらったので、こちらも参考にしてください。
■良かったプレー
ALL WEST(ユニフォーム:白赤)のCFが相手のCBを追いかけたシーン。内側から外側へ向かってプレッシャーをかけたことで、CBはサイドにいる選手にボールを出すことになり、WESTの左SBがパスをカットしたシーン。これはWESTの選手がEASTのビルドアップの妨害を成功させたシーンです。CFのプレッシャーのかけ方と、SBのボールカットに出ていくタイミングが連動していたことからそれぞれのインサイト、チームレベルでのコミュニケーションが取れていたと言えます。
■改善すべきプレー
同じようにALL WEST(ユニフォーム:白赤)のCFがEAST(ユニフォーム:緑)のビルドアップを妨害しようとプレッシャーをかけに行ったシーン。CFは相手の右CBにプレッシャーをかけに行っているのに、WESTのMFはこれに連動できず、EASTの中盤の選手をフリーにしてしまっている。
結果的にEASTのビルドアップが成功して、左サイドに展開されてしまいます。せっかくCFがプレッシャーをかけに行っているのに、MFは相手をマークせず、全体に下がってしまっているというちぐはぐさが、コミュニケーションレベルの低いプレーになってしまいました。
■ジュニア年代から始めるコミュニケーションの準備
白井さんの指摘するコミュニケーションについて、なんとなくでもわかっていただけたでしょうか? ジュニア年代のサッカーキッズにとっては、コミュニケーションレベルを高めるために必要なインサイトやチーム戦術が課題になるのはまだ少し先ですが、こうした要素が必要になったときスムーズにそれを身につけるためには、いまからコミュニケーションを意識してプレーしている必要があります。
「コミュニケーションのところで、お互いのリレーションシップ(関係性)も重要になるのですが、その基本になるのがしっかり“見る”ということですよね」
白井さんの言う“見る”は、まずは自分を見ること、その次に周りを見る、チームメイトを見る、しっかりと見ることできる範囲を広げていくことでコミュニケーションに関わるインサイトやチームと連動する戦術眼が身につくと言います。
「見るというと、ボールや相手チームのことに意識が行きがちですが、まずは自分がどういう選手なのか見ること、知ること、つまり自己分析をすることが大切です。そして周りがどういう選手なのか、どういう状況なのかをしっかりと見る。個人からグループ、チームという概念を育てていくジュニア年代では“見る”ことを徹底しましょう」
見るという観点で考えると、ジュニアの選手たちはメニコンカップに出場する選手たちが何を見て、それをもとにどんな判断を下しているかに注目するのも良いでしょう。
■アナリスト白井さんから見たヨーロッパとの違い
「個々のサッカーのアクションのレベルはすごく高いですよね。オランダの15歳はこんなにうまくありません」
昨年の大会の映像をチェックした白井さんに感想を求めると、こんな答えが返ってきました。世界でも有数の高身長の国・オランダでは、15歳くらいの選手たちは急激に身長が伸びて、体がアンバランスな時期ということもあり、ノッキングを起こしているような状態だと言います。メニコンカップで観た選手たちは動きも滑らかで、オランダとの比較でも「圧倒的にうまい」のだそうです。
「だからこそ、注目すべきはコミュニケーションの部分や、“見る”ことがきちんとできているかという点です」
素晴らしいドリブルや技術を個人技からチーム戦術にどう還元していくのか? 高いレベルのコミュニケーションを取りながら、選手同士の洞察力で連携し、お互いの役割を調整する。ヨーロッパでは、15歳の選手たちにそんなシーンが求められているのです。
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取材・文 大塚一樹