サッカー豆知識
2017年11月20日
サッカーの練習だけだと、小学生年代でしか通用しない選手に? 子どもの頃に1つのスポーツに専門特化する危険性
前編では生物学年齢とゴールデンエイジ理論の是非について、小俣よしのぶさんに話を伺いました。
後編では「子どもの頃からサッカーの練習だけをしていると、体が大きくなったときにサッカーが下手になる」という小俣さんの提言を紹介します。(取材・文:鈴木智之)
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■早い段階で特定のスポーツに専門特化する危険性
サッカーが上手くなるためには、一日でも早くサッカーを始めること。始める年齢は低ければ低いほど良い。昨今、このような考え方が一般化しています。しかし、小俣さんは「一概にそれが良いとは言えません」と警鐘を鳴らします。
「子どもの頃にサッカーならサッカーだけといったように、特定のスポーツに特化し、一年を通して専門的なトレーニングを行うことは、全般的で基礎的な運動能力の発達を妨げる恐れがあります。基礎的運動(走る・跳ぶ・投げる・捕る・泳ぐ・蹴る・打つなどの運動スキル)が十分に発達する前にサッカーの動きだけに特化して、狭いフットサルコートでドリブルなどの練習ばかりさせても、ドリブルは上手になりますが、サッカーに必要なほかの動きができるようにはなりません」
小俣さんは前述した「運動スキル」とサッカーのドリブルやパスといった、その競技に必要な専門性の伴うものを「スポーツスキル」と分けて説明します。
「4種(小学生年代)までは接触プレーが少ないので、スポーツスキルの練習だけで通用するプレーはできるかもしれませんが、3種、2種と成長するにつれて、フィジカルコンタクトがあったり、競り合いの中で上半身を使って大きな力を出し、下半身で細かく巧みで素早い動きをするといった運動スキルや身体操作性の能力が重要になります。サッカーの専門スキルばかりやっていてもサッカーに求められる動きや運動能力につながらないんです」
■日本サッカー界が抱えるフィジカルの問題を解決するヒント
小俣さんはその考えを元に、フィジカルトレーニングのスクールや、いわきFCのアカデミー選手に向けた指導をしています。そこではジュニアの子達に対して、いわゆるサッカーの練習(ドリブルやパス、1対1など)の割合を少なくして、まず速く走る、強いボールを蹴るといった、基本的な運動能力と基礎体力の向上のためのフィジカルトレーニングや身体操作性の養成を行っているそうです。
「フィジカルトレーニングのスクールでは、サッカーや野球などの競技に関係なく、中学生になったときにスポーツをするために必要な体づくりと運動能力養成に取り組んでいます。『サッカークラブに入ったら、全力スプリントの機会が減ったので足が遅くなった』という理由で来る子もいます。結局、サッカークラブやスクールはスキルの練習しかしないんです」
たしかに、言われてみればそうかもしれません。的を射た指摘です。
「ボールを使ったスポーツスキルの練習ばかりしていると、子どもは楽しいし、親もサッカーをやっているように見えるので良いと思いがちですが、私は長い目で見るとどうなんだろうと思ってしまいます。繰り返しお伝えしているように、4種でしか通用しない選手を作っているのではないかと思うんです。サッカーをしている子に顕著なのですが、腕立て伏せができない、小学校高学年で握力が小学1年生の平均である10kgしかない、走るときに腕が振れないという、下半身に比べて上半身の発育発達が遅れている子がたくさんいます」
小俣さんは「そのあたりの認識を変えていかない限り、日本サッカー界が抱えているフィジカルの問題は解決できないのではないか」と言います。
「子どもの頃からサッカーだけ、スキルトレーニングだけをしていると、子どもの中で通用するサッカー選手はできますが、思春期を迎えた時に行き詰まってしまう傾向にあります。それは、ベースとなる運動スキル,さらに体力や身体操作性が身についていないからです。そう考えると、子どもの頃はまず運動スキルや身体操作性の感覚が身につくことに取り組み、どのような動きもある程度できるようにしておいて、プラスアルファでサッカーの専門的トレーニングをした方が良い。私はいわきFCではそのような考えのもと、サッカーのスキル練習以外の時間をたくさんとっています」
近年の子ども達は外で遊ぶ時間も場所も減り、それが運動能力と体力の低下につながっていることは周知の事実です。運動する場がないためスクールに入れても、そこで取り組むのは運動スキルや基礎体力作りではなく、スポーツスキルの獲得がメイン。結果として、専門的スキルに優れた選手は増えてはいても、本当の意味でのアスリートは生まれにくくなっているといえるのではないでしょうか。
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