■複数のポジションを経験させ、折れない節をつくる
先に挙げた選手たちは複数のポジションへコンバートされた経緯があります。強みを複数のポジションで活かせるようにするためです。
「ヘディングが強ければセンターフォワードもセンターバックもできた方がいい。足が速ければ2列目やサイドでプレーできれば幅が広がる。1つに絞るのではなくて、ストロングな部分を活かすために最低でも2つのポジションはできるようにする」
そうして選手個々の強みを明確にすることで、個性的で特徴のある選手が育っていくのです。彼らには在学中から日本代表になれる可能性を感じていたそうです。そうした場合、「どのポジションがふさわしく、チームに貢献できるか」という逆算をします。
「植田の場合は身体能力。いろんなスポーツを経験してきて、走る、跳ぶ、蹴る、どれもが飛び抜けている。でもボールを運ぶ、止める、これが入学した時はできなかったので、これをコントロールするのがテーマでした。最初はフォワードでしたが、そのまま育てても荒削りで終わってしまう。後ろ(DF)に下げてサッカーの本質をしっかり理解させる必要がありました」
平岡監督が「どこで使うか、いちばん迷った」のが谷口でした。それはサッカー選手としてのアベレージが、それまでに見てきた選手と比べても一段上だったからです。
「感じたのは『良い姿勢でボールを蹴る』ということ。顔が常に上がっている。アベレージが高く、どのポジションでもプレーできますが、谷口の正確なパスはゲームをコントロールする上で要になります。だったらボランチだと。フロンターレでは最終ラインに下がっていますが、タイミングのいい正確なパスは生きていますね」
平岡監督はこう言います。
「適性ポジションの発見やコンバートには、監督や指導者の経験値も必要で広い世界を知っていないといけない。信頼関係や安心感があるかどうかでも変わってくる。日々直接見て、選手の特性を知っている指導者がどう視野を広げるかで、選手の将来が変わってきます」
またそうやって新たなテーマを与えることが、「良い節(ふし)を作ることになる」とも言います。
「竹と同じです。しっかりした節のある竹なら、横風が吹いても向かい風が吹いても大丈夫です。枯れることも、折れることもない、『強い節』を作るということです」