■被写体への愛こそが、プロ並みに撮るためのコツ
では、「構図」についてみてみましょう。兼子さんは「欲張らないこと」が大切だと話していましたが、写真を比べると、その違いは一目瞭然です。遠い場面を漠然と押さえてしまうと、何が撮りたいのか判然としないので、撮りたい選手を決めたら、そこに寄って撮ることですっきりとした写真にすることができます。
(上のように全体を抑えようとせず、撮りたい人物だけにフォーカス 写真:兼子愼一郎)
続いては「目線」ですが、選手の目線に合わせて座って撮る方が臨場感や迫力が出るようです。1枚目は立って撮影したもので、2枚目は座って撮影したものです。座って撮ることで、背景の抜け感やボケ感も出てくるので、よりプロっぽい写真が撮れることが分かります。
(上は立って撮影したもの、下のように低い位置からの方が臨場感が出る 写真:兼子愼一郎)
また、迫力があり、動きのある写真を撮るためには「場所」も重要です。選手はゴールに向かって来るために、大前提としては下の写真のようにゴールラインと平行のポジションで撮るといいでしょう。
(撮影位置はゴールラインと並行の位置など、撮りたいシーンに合わせて 写真:兼子愼一郎)
ただし、ゴールに近い位置は必然的に前線の選手に限られることが多いため、お子さんが守備の選手であったり、もしくはゴール後にベンチに寄って来るシーンを撮りたかったりする場合などは、サイドライン側で撮るのも有効です。いずれにしても、下の写真でその違いが分かるように、横に移動する選手よりも、正面に向かって来る選手を撮る方が迫力のある写真となることは間違いないでしょう。
ちなみに、そうした狙いを持った写真を試合中に撮ることが難しい場合は、ウォーミングアップの時間のシュート練習などでコーチにお願いして撮影させてもらうことも方法の一つです。そうすれば、自分の狙った構図で必ずシュートシーンを収めることができますし、撮影チャンスも何回か訪れます。また、「ゴールを決めたらカメラに向かってきて」と子どもたちに伝えておくのもいいかもしれません。
(上のように横に動く構図よりカメラに向かってくる方が、迫力がある写真が取れる 写真:兼子愼一郎)
「『プロっぽい』とは、それなりの大きさで撮れて、ピントも合っていて、ボケ感があり、かつ動きがある写真のことでしょう。でも僕たちでもそうしたシーンを撮れるチャンスは限られています。だからこそ、誰を撮るのか、何を撮るのかということを前提にした撮影場所を決めることも大切です」
その意味では、「背景」も非常に重要なポイントです。「スタジアムではない会場などでは特に、背景に駐車場があったり、工事現場の隣だったり、トイレや自動販売機が写り込んでしまう場所もあります。ある程度は仕方のない面もありますが、余計なものはできるだけ減らせるといいですよね。かっこいいシーンを撮った写真であっても、そういう写り込みによってかっこよさが半減してしまいますから」
(後ろに自動販売機が写り込んでいる 写真:兼子愼一郎)
実はプロカメラマンは、試合前から展開を予想して、選手がどう動くかまでを考えて"場所取り"をしています。自分の後ろにサポーターがいる場所にいれば、ゴール後に選手が駆け寄って来るかもしれないですし、逆に前方にサポーターがいる場所にいれば、ゴールの歓喜とサポーターが一緒に写り込んだ写真が撮れることもあります。選手にはそれぞれ得意なサイドや得意なプレー、お決まりのゴールパフォーマンスなどがあるので、もちろんすべてが想定通りにはいきませんが、よりかっこいい写真を撮るためにそうした事前準備を欠かさずに行っています。
「僕たちは、いつだって"おいしいシーン"を狙っているんです」
ただ兼子さんはそうしたことを踏まえながらも、最後に最も大切なことを話してくれました。
「プロであっても、アマチュアの人の写真に敵わないこともあります。プロっぽさを表現できる最大の要因は、被写体への愛だと思います。お子さんの写真であれば、家族の方が絶対にいい写真が撮れるはずです」
カメラの知識や技術は大切ですが、「子どものかっこいい写真を撮りたい」というお父さんお母さんの思いこそが、実は"プロ並み"に撮影するための一番のコツのようです。
兼子愼一郎/フォトグラファー
日本スポーツプレス協会会員。国際スポーツプレス協会会員。サッカージャーナリスト養成講座「カメラマン科」では講師を務める。1991年よりフリーランスとして活動。ベースボールマガジン社、ソニーマガジンズ、Jリーグフォトなどの仕事を経て、1998年よりイタリアサッカー専門誌「CALCIO2002」や「Jリーグサッカーキング」などに携わる。これまでワールドカップは3回取材、チャンピオンズリーグ決勝を10回以上撮影した実績がある。