体罰をめぐる問題が社会問題化しています。日本サッカー協会でも今月、緊急会見を開き暴力根絶に向けた新指針を打ち出すとともに、改めて暴力を「しない、させない、許さない」と宣言するなど、体罰問題、暴力問題への姿勢を新たにしています。 言うまでもなく、サッカーの現場に暴力、体罰は必要ありません。しかし、この問題は暴力の有無、手を挙げたか、挙げていないかという単純な基準で見ていいものではありません。
今回のことをきっかけに、暴力や体罰、指導について改めて考えた方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?子どもたちが楽しく、自主的にサッカーをプレーするために。
いま「プレイヤーズファースト」の考え方、その重要性が再び注目を集めています。今回は、海外の取り組みに触れながら、子どもたちへのアプローチについて一緒に考えていきましょう。
■デンマークに学ぶ子どもたちとの接し方
下で紹介しているのはデンマークサッカー協会が子どもたちへの接し方の心得を示した10カ条です。ジェフ千葉の育成コーチだった池上さんの著書『サッカーで子どもがみるみる変わる7つの目標』でも取り上げられていることから、ネットなどでもよく紹介されているので目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
デンマークサッカー協会 少年指導10ヵ条
- 子どもたちはあなたのモノではない。
- 子どもたちはサッカーに夢中だ。
- 子どもたちはあなたとともにサッカー人生を歩んでいる。
- 子どもたちから求められることはあってもあなたから求めてはいけない。
- あなたの欲望を子どもたちを介して満たしてはならない。
- アドバイスはしてもあなたの考えを押し付けてはいけない。
- 子どもの体を守ること。しかし子どもたちの魂まで踏み込んではいけない。
- コーチは子どもの心になること。しかし子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない。
- コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切だ。しかし、自分で考えさせることが必要だ。
- コーチは子どもを教え導くことはできる。しかし、勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身だ。
書いてあることはいちいちもっとも。でも、ひとつひとつ見ていくと、耳の痛いものもありますよね。
暴力とは次元が違いますが、子どもたちのサッカーの試合でもベンチから、ピッチサイドから「なんでできないんだよ!」「なにやってんだ、ほらそこでシュート!」なんていう声、時には怒声が飛び交っていることがあります。 あるコーチはそんな姿に対して「教えていないことはできません。試合で怒鳴る前に練習で教えればいいのに。できるようにしていない自分が悪い」とバッサリ。
デンマークの10カ条にあるように、すべての指導者が子どもたちのサッカー人生をともに歩んでいるという自覚を持って、自分の役割について考えることが大切です。
■ プレーするのはあなたじゃない! 親のための10ヵ条
今回、デンマーク協会の10ヵ条を取り上げるにあたって、原文を探しました。訳されて広まっているものの原文は見つからなかったのですが、それとは別に、おそらく新しく加わったサッカーをする子どもを持つ保護者に向けての10ヵ条がデンマークサッカー協会のオフィシャルサイトにありました。これも非常にためになる内容だったので、ここに掲載します。デンマーク語で書かれている原文を英語に翻訳して訳したので、正確ではない部分もあるかもしれませんが、大切なことは伝わるはずです。
- 子どもたちが自ら望んだときに試合やトレーニングに参加させてあげましょう。
- 試合中はすべてのプレーヤーに励ましの言葉を送りましょう。あなたの息子さんや娘さんにだけではなく。
- 成功にも失敗も同じように声援を送りましょう。批判ではなく、ポジティブな声をかけてあげてください。
- コーチの選手起用を尊重しましょう。試合中に選手起用について影響を与えようとするのはやめましょう。
- レフェリーの判定を批判するのはやめましょう。
- プレッシャーを与えることなくプレーに参加させてあげましょう。
- 試合の後は結果の話だけでなく、覚えているプレー、楽しかったシーンなどについても話し合いましょう。
- 節度を守り、分別のある行動をとりましょう。何事も度を越してはいけません。
- 所属クラブの運営には尊敬の念を持って接しましょう。保護者と指導者間のミーティングでは、明確な指針を持ち、どのような態度で子どもに接するのかを話し合いましょう。
- サッカーをプレーしているのは子どもたちです。決してあなた自身ではありません!
10番目の項が胸に響きますね。親御さんの中にはプレーする子どもたちよりヒートアップしてしまって、試合中はもちろん、所属クラブや進路、将来のことにまで必要以上に口を出してしまう人もいます。あくまでもプレーするのは子どもたち。この前提を守らない限り、いくらよかれと思っての行動でも、子どもたちに良い影響を与えることはできないでしょう。
子どもたちは何を求めているのか?どういう距離感で付き合っていけばいいのか?熱心=過干渉となってしまっては、せっかくの子どもたちの可能性を親が自ら狭めてしまう結果になりかねません。
とはいえ、頭でわかっていてもその場に立つとなかなかうまくはいかないもの。次回は同じヨーロッパのスイスサッカー協会の掲示ポスターをご紹介。なかなか耳の痛いメッセージ! 「うちの子もこんな風に思っているかも?」そんな文章を紹介します。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/サカイク編集部(JA全農杯チビリンピック2012大会より)