■「自分を守りなさい」フィリップ・リュカの教え
ヴァルビュエナはやがて、トップリーグの老舗ボルドーの下部組織に迎えられます。そこでは、やはり今大会に出場しているリオ・マヴバと一緒でした。この時代について、ヴァルビュエナはこう言っています。
「リオ・マヴバとのトレーニングをよく覚えてる。一対一のトレーニングだった。あれは10歳、いや、12歳ぐらいだったかなあ。彼(マヴバ)はもう勝負意識をもってプレーしていた。それなのに僕ときたら、転がっては面白がっていたんだよね。父は(トレーニング帰りの)車の中で、『フット(サッカー)はそういうもんじゃないぞ。リオを見てみろ。彼はもうちゃんと勝つためにやっている』と言っていた。転がっては笑って、フットを余興みたいにしている僕を見て、胸が痛んだんだと思う」
とはいえヴァルビュエナは、テクニックがあったため、マヴバと一緒に晴れてボルドー育成センターに合格します。16歳から18歳までの時期です。指導者はフィリップ・リュカ。このボルドー時代に、ヴァルビュエナは、いろいろなことを学んだと語ります。
「フィリップ・リュカが全てを学ばせてくれた。自分を(タックルから)守ることや、コンスタントにボールと敵の間に入るようにすることなどだね。小さいときはボールのことばっかり考えていて、(競り合う)相手のことを考えていなかったんだよ。でもここ(育成センター)からは、第一目標=正確なプレーをすること、第二目標=自分を守ること、になったんだ」
この言葉から、育成センター指導者が、小さくてテクニックのある選手を守る指導をしていたことがわかります。これは非常に重要な点です。ヴァルビュエナの強み(ボールスキル、テクニック、モビリティーなど)をしっかり見抜き、そこを伸ばしてやるために身の守り方を教えて、ケガからも守り、同時に小ささをハンディキャップと感じないように指導したわけです。
また育成センターの指導で、成長を阻害しないように気をつけながら徐々にフィジカルも強化するようにし、当初の痩せっぽちから少しだけ脱出もしています。
ところがヴァルビュエナは、育成センターを卒業した後にボルドーに捨てられてしまいました。小さかったために、トップリーグでプロデビューするのは無理、と判断されてしまったのです。多くの場合、育成センター指導者は教え子を擁護するのですが、トップチーム監督やクラブ首脳が捨ててしまうのです。こうしてヴァルビュエナは、マヴバたちがプロ契約していくなかで、アマクラブ(5部リーグ)に捨てられてしまったのです。
そしてここから、ヴァルビュエナのすさまじいリベンジ・ストーリーが始まります。
結城 麻里
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出版社/メーカー : 東邦出版
プラティニ、ジダン、アンリ、リベリ、ベンゼマ、ヴァランヌ、ポグバ、さらにはドログバ、アザールまで、世界で活躍する逸材が湧き出るように輩出し続ける、育成大国・フランス。本書は、フランスで16年間サッカーの取材を続け、フランス連盟のトップクラスや育成関係のキーパーソン、さらには「レキップ」「フランスフットボール」などにパイプのある著者が関係者への綿密な取材を重ね、その概念やこれまでの試行錯誤と発展の経緯、そして最新の議論に至るまでを体系的にまとめた画期的な一冊。サッカー指導者、育成関係者の皆さんはもちろん、一般のサッカーファンやフランス代表ファンの方にも一読いただきたい内容となっている。
取材・文/結城麻里 Photo By Ronnie Macdonald