■"勇気"が行動力を高める
もうひとつの“勇気”は“実践”に関わることです。古代ギリシアの哲人アリストテレスは、「全ての行動には倫理的な側面がある」と喝破しています。心理学者の岸田秀氏は「人類は本能が壊れてしまったために、考えずに行動ができなくなった」(『ものぐさ精神分析』)と言っています。本能が機能している他の生物は、考えずに行動できるのです。人間のみが、考えないとできない行動が多いのです。
“尊重”と“勇気”という2つの能力は、自然に身に付くものではありません。修得するにはトレーニングが必要です。たとえば「質問!」と挙手することには、どれだけの勇気が必要でしょうか。逆に、それを何回も克服して挙手をすると、それほどの勇気が必要なくなっていきます。それがトレーニングの成果です。
近代になって産業革命を経た後に社会が成立し、国民国家ができると、この2つの能力を修得した「国民」の育成が、教育における国家的な最優先の要請事項になりました。世界に先駆けて国民国家を作り上げた英国は、スポーツを通じて社会人に必要な能力を修得させることがもっとも有効であることを発見した(修得に効果的なように従来のスポーツを再構成し完成した、という側面もあります)。つまりスポーツマンシップは国民・市民・社会人の基本的な行動原理なのです。
スポーツマンとして育成され、社会人として世に出た若者が、「ビジネスの世界ではどう行動すべきか」という問題に移りましょう。言うまでもありませんが、これがビジネス・パーソンシップです。(スポーツマンシップが“尊重”と“勇気”である以上、ビジネスパーソンシップもこの2つが基盤になっています。ビジネスパ―ソンには、まず最初に『社会のルール』と『ビジネスのルール』を尊重することを要求されるのですが、この時点で“尊重”という能力が備わっていないとルールを守れない、つまり社会に適応できません)
下記はビジネスパーソンシップの基本的な“心得(行動規範)”です。自分を振り返ってみる参考にしてください。
ビジネスパーソンシップ心得1)自律:あなたは言われた仕事を、ただこなして満足していないだろうか? 自分に与えられた課題の意味を考え、成果を定義してから取り掛かっているだろうか?2)合理:あなたは、問題の背景や、因果関係を考えずに解決に着手しようとしていないだろうか? 問題の原因を考えて、どんな領域で、どういったフレームで対処すべきか考えた上で、成果を定義し、解決のプロセスを考えているだろうか?3)洞察:あなたは、自分なりに考えもしないで簡単に質問していないだろうか? その質問は、本当に切実で重要なのだろうか? その質問の答えを得るために、自分がどれほどの努力をしているだろうか?4)俯瞰:あなたは、仕事の成果をアウトプットとして満足していないだろうか?成果を次のインプットとして、次の課題に活かすことを考えているだろうか?5)客観:あなたは、現在の職場や仕事が自分に合わないなぁ、と不満を持ち、何となく身が入っていないのではないだろうか? 与えられた持ち場において、一流を極めたいと考えて日々努力しているだろうか? 一流のビジネスマンは、どんな職場でも一流を目指す。二流は逆にどこに行っても二流に留まる。そして留まる理由を、つねに自分以外の環境のせいにする。
文・広瀬一郎 写真 田丸由美子