■アイマスクをつけるとコミュニケーションの大切さがわかる
3クラスの生徒たちはそれぞれに6つのことを感じとっていました。たとえば、準備運動の一コマ。2人1組になり、1人がアイマスクをしてストレッチし、もう1人がそのストレッチの内容を指示します。講師の秋葉選手はその内容を言葉で伝えず、体で指し示すだけです
秋葉選手 「はい、じゃあこれから」
生徒A 「屈伸」
生徒B 「わかった」
秋葉選手 「じゃあ、次!」
生徒B (まわりの雑音で聞こえず、まだ屈伸中)
生徒A 「もう終わったよ」
生徒B 「だって、見えないからわからないもん」
秋葉選手 「終わったことを教えてあげてね」
生徒A 「あっ、そうか」
ストレッチが屈伸だと全員がわかるものであっても、終わったことを言葉として伝えなければアイマスクをつけている子は次に進めません。また、ストレッチの内容(写真)が言葉にできないものになるとこんな状況になります。
秋葉選手 「次はこれね」
生徒A 「左膝を曲げて、右足を後ろに伸ばして、左手はかかとまで伸ばす」
生徒B 「こう?」
生徒A 「違うよ、左手は右足のかかとの方に伸ばすの」
生徒B 「こう?」
生徒A 「そう。あっ右手は頭の前に持ってくる」
生徒B 「こんな感じ?」
生徒A 「(結局、生徒Bの体のパーツを手で動かして完成型を作る)。こう!」
生徒B 「名前は知らないけど、やったことはある」
生徒A 「言葉で伝えるのって難しい...」
たった2つのストレッチですが、子どもたちがスポ育の目的を体感している様子がわかるでしょう。徳長校長は、このことを生徒たちの感想文を読んで知ったと言います。
生徒たちには体験教室後に感想文を書いてもらいます。多くの子が『目が見えない人に対しても、また見える人にもちゃんと言葉に出して伝えることが大切だということを学んだ』と書き残しています。やはり、目が不自由な人とふれ合ったことは大きな経験のようです。『これまでは、どうしたらいいのかがわからなかった』という内容もたくさん見られますから。
最近の子どもたちは、コミュニケーションの図り方があまりうまくないようです。思うことはあるのでしょうが、それを相手に伝えることが下手なのでしょう。文章にして書かせると、きちんと考えているんです。
接し方がわからない、話し方がわからない、言葉での伝え方がわからない......
こんな生徒がたくさんいるようです。もちろん、学校ではいろいろなことを教えています。しかし、ご家庭でも同様に教えることは必要なことです。昔は近所の人たちとも言葉を交わしていたのが、最近はめっきり減っています。学校内ではやれても、一般社会の中でコミュニケーションをうまく図れない子たちが多いように感じます」
ただ、たった40分の授業の中で子どもたちは大きく変わります。見えるとか見えないとか関係なく、弱視の秋葉選手と交流を図るようになります。
生徒A 「洋服はどうしているんですか?」
秋葉選手 「みんなと同じ、洋服店に行って買ってるよ」
生徒B 「どうやって選んでいるんですか?」
秋葉選手 「自分で好きな服を選ぶし、細かいところは店員さんに聞けばいいから」
男子も女子も関係ありません。男子はブラインドサッカーのプレーを通じて選手と交流を図るし、女子は競技よりもパーソナルなところから選手と交流を図って競技を楽しむようになります。
いずれもブラインドサッカーが『人との交わりなしに成立しない競技』であるがゆえに、結果的に人とのコミュニケーションには、さまざまなことを考えなければならないことを知るきっかけになるようです。
声に出さないと伝わらない、言葉を選ばないと具体的にわからない、声のトーンによって受け取り方が変わる、体に触れるだけで安心することがある......
秋葉選手は、目が見えないことでの失敗談を交えながら子どもたちと楽しそうにコミュニケーションをとっていました。弱視、または盲目の人たちにとっては言葉で交流することは当たり前のことなのです。そして、秋葉選手は生徒たちに必ず2つのことを伝えていました。
目が不自由だから伝えられるおもいやり!子どもたちの成長に大切なものとは何か?>>
取材・文 木之下潤