前回、『音』と『声』のコミュニケーションの重要性を教えてくれた弱視クラスのブラインドサッカー日本代表・秋葉茂選手。第二弾では、目が不自由だから伝えられるおもいやりの心とチャレンジの大切さについてご紹介します。(取材・文 木之下潤)
■生徒だけでなく、先生にもたくさんの学びがある
秋葉選手は目が不自由なことでの失敗談やブラインドサッカーで負傷した話などネガティブなことも含め、たくさんのことを話していました。特に『スポ育』という体験教室の中で、こんな声を発していました。
「失敗しても大丈夫。次、チャンスがあるから」
「ゆっくりでいいよ。そのとき、まわりの人が教えてあげてね」
たとえば、体験教室の最後に行うコーン当て競争での1シーン。アイマスクをした生徒が3m先に置いてあるコーンにボールを当てるゲームを、4チームにわかれて競争している最中に、あるチームでこんなやりとりがありました。
蹴る人 「方向は合ってる?」
生徒A 「コーンはここ」
生徒B 「ここじゃ、わからないよ。手を叩いて」
生徒C 「体をもう一歩だけ右に」
生徒D 「早く、早く」
蹴る人 (蹴ったけど、ハズレる)
生徒E 「あー、外れた」
生徒B 「早く、次の人に替わろう」
生徒D 「そうだよ、交代を早くしたらキックのチャンスが増えるよ」
生徒A 「具体的に右に何cm動くって言わんとわからないね」
生徒C 「蹴る人のペースに合わせてあげないと焦っちゃうよ」
ゲーム形式の競争になると、コミュニケーションがより活発化します。それは勝利を目指し、生徒たちも思ったことを意見し合うからです。時間制限内に何度コーンに当てられるかを競うため、さまざまなことが必要になります。
まずは情報提供です。蹴る人はアイマスクをしているため、具体的な指示が重要です。さらに指示は蹴る側に合わせなければなりません。いっせいに言葉をかけられても混乱するから。また、蹴る人に対して「早く」などのネガティブな言葉をかけても成功につながりません。落ち着いて蹴られるように環境を整えてあげるのも周囲の務め。ほかにも、時間制限内でたくさんボールを蹴ったほうが得点につながるため、蹴る人が素早く交代することはチャンスを増やすことになります。
秋葉選手は成功につながり、勝てるような言葉掛けをしていました。これらは先生にとってもたくさんの気づきになったようです。ある先生はこんなことを語ってくれました。
「○○くんが大きな声で教えていることに驚きました」
「生徒が外部の方と接する姿を初めて見たので新鮮でした」
「問いかけるように話すと、子どもも考えるものですね」
先生側の気づきについては、徳長邦彦校長も次のように言っています。
「外部講師を頼むことは、先生にとっても学びにつながります。コミュニケーションの取り方、声のかけ方やタイミング、子どもたちの表情の変化など。担任としてクラスの生徒と毎日接していますから時間とともに発見も減っていきます。だから、外部講師とのふれ合いを外側から見学することは新鮮だと思います。インパクトが大きいですからね」
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取材・文 木之下潤