こころ
「負けず嫌い」って何? 改めて考えるサッカーにおけるメンタルの重要性
公開:2018年6月 4日 更新:2018年7月20日
■子どもは、やる気を見付けるプロ
大儀見さんは「自分でやる気をコントロールできるようになるのが望ましい」と言います。子どもに限らず、トップレベルの世界でも試合中の選手が感情に左右されて浮き沈みしてしまうシーンを見掛けます。ピッチでイラ立ちを隠すことができず、それによってさらにミスを重ねていってしまうのです。
『やらされている』やる気とは専門的に言うと「外発的動機付け」、『自ら進んでやる』やる気とは「内発的動機付け」と呼ぶそうです。つまり「やる気」の動機を自分の外側から持ってくるのか内側から持ってくるのか、ということです。結果や評価、比較、ランキングなどはまさに外の情報に左右されているものですし、やる気をコントロールできない原因を"何かのせい"にしてしまっているのです。
「イライラするというのは、コントロールできないものをコントロールしようとしている証拠です。過去を引きずって、そこに戻ろうとしている。でも逆に、内発的動機付けがあって切り替えがうまい選手は、イライラしそうな場面でも、前を向くことができます。『こうなっちゃったか、よし、じゃあ次はこうしよう』と。自分の頭の中で考えて、次の作戦を練って、自己決定するというプロセスを踏んでいるんです」
ですからまずは、自分の心の状態を知る作業から始めることで、やる気をコントロールする作業に移れるはずです。大儀見さんは、「外発的動機付けにも4つの段階があります。いきなり内発的動機付けに持っていくのは簡単ではないので、少しずつ近付けばいいと思います」と教えてくれました。
では、それはどのようなものでしょうか。
「段階としては『外的調整』、『取り入れ的調整』、『同一視的調整』、『統合的調整』があります。最初は『怒られるからやる』から始まり、『期待されているからやらないとな』、『こうやって工夫したらいいかも』、『これをやったら自分の将来に役立つだろうな』と、徐々に『内発的調整』に近付いていきます」
子どもは本来、「勝ちたい」、「うまくなりたい」といった気持ちを持っているものです。だからこそ大切なのは「自分で工夫したプランや、自分の中で模索し、探求した結果として強くなっていくことです」。そうやって自分の中で何かを選び、決定できることが増えれば、"動物園の動物"を抜け出せるのです。
大儀見さんは、「子どもは、やる気を見付けるプロ」だと言います。「積み木で遊んでいて、飽きたらもっと複雑な遊びをするようになりますよね。だから退屈とは、成長の証なんです。少しずつ目標やチャレンジ、ワクワク感を高めていけたらいい。そうすることでエキサイティングを覚えて、より高い目標を見付けて、試合や大会が楽しみになります。そういうベストな心理状態は、指導者や親には作れません。サポートはできても、最終的には自分で工夫するプロセスによって到達できるものですし、その過程は一人ひとり違いますから」
こうした話を通して、「負けず嫌い」つまり「やり遂げる力がある」という心の状態とは、自分自身で考えながら工夫して、自分の選択と自分の決定によって生み出していくことがいいのだと理解できました。
ではそうした「心の持ち方」はどのようにして作れるのでしょうか。また、その時に周囲の大人はどのようなサポートをしてあげられるのでしょうか。
後編では、そうしたテーマに踏み込んでいきます。
大儀見浩介(おおぎみ・こうすけ)
株式会社メンタリスタ代表取締役。静岡県清水市生まれ。東海大学第一中学校(現・東海大学付属翔洋高等学校中等部)サッカー部時代に、全国優勝を経験。東海大一高ではサッカー部主将としてプレーした。東海大学進学後、高妻容一研究室にて応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学び、現在はスポーツだけでなく、教育、受験対策、ビジネス、社員研修など、様々な分野でメンタルトレーニングを指導している。一橋大学サッカー部、京都大学サッカー部等、小学生からプロまでのメンタルトレーニングをサポート。NPO法人清水サッカー協会メンタルトレーニングアドバイザー。
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