■見守ってくれる親の存在
これまで多くの選手が青森山田から巣立っていった。そこには柴崎や櫛引のように、中学から6年間在籍して巣立っていった選手もいれば、橋本和(柏レイソル)、松本怜(大分トリニータ)のように高校の3年間を過ごし巣立っていく選手もいる。「彼らには見守ってくれるいい親がいる」と黒田監督は語る。
「家族の責任は大きいと思います。もし、子どもに自立しようとするパワーがあれば、子どもが親を突き放すことができる。そうでなければ、親が子どもを突き放す必要がある。このどちらかしかない。当然、後者は子どもが変わらなければ意味はない。親が差し伸べた手を振りほどくくらいの子どもは伸びていくと思います」
もちろん、受け入れる組織側の努力も必要不可欠で、青森山田高校ではトップチームがユース年代最高峰のリーグである高円宮杯プレミアリーグに所属し、セカンドチームは高円宮杯プリンスリーグ東北に所属、サードチームは青森県リーグに所属し、より多くの選手が公式戦に出場できるようになっている。こうすることで、選手たちは懸命にサッカーに取り組むし、システム上、ひとつのチームが降格してしまうと、その下のチームまでもが自動的に降格してしまう状況もあり、全員が『チームのために』戦うようになる。黒田監督はこう強調する。
「やはり人間教育をきちんとしてから、社会に送り出してあげたい。結局、サッカー選手でご飯を食べていけるようになるのは、ほんの一握り。大多数は大学を経由して社会に巣立っていきます。ルールを守ることや、基本的なマナー、挨拶などをウチで徹底して身につけることで、社会に出たときに大きなプラスになる。さらに、ウチの最大の財産は県外の選手と触れ合えることだと思います。県外の選手は志の高い選手が多いので、そういう選手とふれあい、一緒にサッカーをしたり、プライベートをともにすることは本当にプラスになる。そういう価値観を見つけ出せる選手は自立していると思います」
■大事なのはシステムではなく、自立する心と環境
「親が思っている以上に、現実を見ている子が多いと思います。たとえば、小学校で『夢は何ですか?』と聞くと、『バルセロナでメッシと一緒にプレーしたい』という答えが沢山返ってきますが、中学校に行くと『公務員になります』と書く生徒が増えます。それは何故かというと、自分が周囲との差を捉えられるようになってくるから。そして、自分が描いている夢があまりにも現実とかけ離れている事に気付きます。でも、うちのような中高一貫校にくれば試合出られなかったとしても、6年間サッカーに関わり続けることができます。公務員を目指すのは、高校を卒業したあとでもいいと思います。中学生の時から公務員を目指していれば良い公務員になるわけでもないです。なぜなら、最初からあるジャンルだけにしぼった勉強をしていないほうが、いろいろなことを知れて、色んなものにふれあえて、結果、良い医者になると思います。これは人と触れ合う仕事にはすべて当てはまります」。
『覚悟』がモチベーションと集中力をもたらし、仲間とサッカーに打ち込むことで、いろいろな思いや人たちとふれあいながら、子どもの自立を促す。6年間という期間を無駄にしないためにも、まず入学前に親と子どもでコミュニケーションをしっかりと取ること。子どもたちの覚悟を感じ取ったら、背中を押してあげること。入学後は、突き放すべきところで突き放す覚悟を持つ。親と子どもの覚悟と自立が大事な要素である。中高一貫教育は決して『あずけたら何とかしてくれる』効果的なシステムではないことを、自覚しなければならない。
取材・文・写真/安藤隆人