前回のコラムではフリーキックの蹴り方、つまりテクニックを中心に解説しました。今回はより実戦的に、フリーキックからゴールを決めるための『戦術』を紹介します。
フリーキックは、単純にボールを蹴るだけではなかなかゴールを挙げられません。どんなに素晴らしいボールを蹴っても、ねらったコースを相手GKに読まれていたり、相手チームの壁が高いときには、うまくゴールを決められないことがあります。
大切なのは、キックが決まる確率を少しでもアップさせるために、駆け引きをすること。そのためには次のようなポイントを意識してみましょう。
■蹴るタイミングを読ませない
せっかくゴールの隅にコントロールされたボールを蹴っても、反応の良いGKは、飛びついてセービングすることがあります。それを防ぐためには、どうすればいいのでしょうか?
GKの立場になって、動きを考えてみましょう。GKはキッカーが助走する動きに合わせて重心を沈み込ませ、そこから地面を蹴ってボールに飛びつきます。このときキッカーがボールを蹴るタイミングがGKに"バレバレ"になっていると、GKは地面を蹴るタイミングをボールにピタリと合わせて、鋭くダイビングしてきます。
つまり、GKの反応を鈍らせるためには、キッカーがボールを蹴るタイミングを読ませないことが大切なのです。そのためにどうするか? 最も基本的な方法は、下図のように複数のキッカーを置くことです。
キッカーが1人しかいなければ、GKはそのキッカーの動きにタイミングを合わせやすくなりますが、図のように2人以上のキッカーがボール周辺に立っている場合、誰が蹴るのか分からないため、GKは蹴るタイミングが読めなくなります。
複数人のキッカーが立っているだけでも十分なフェイントになりますが、試合中、同じパターンを繰り返すと、誰が蹴るのか読まれてしまうので、たまにはAがスルーしてみたり、Bが助走するフリをするなど、GKに陽動を仕掛けてみるといいでしょう。
■GKの立ち位置を見る
前回も少し書きましたが、相手GKが立っている位置を見極めることも重要です。ニアサイドに寄っているのか、ファーサイドに寄っているのか。ただし、相手GKがわざとコースを空けているケースもあるので、ここはキッカーとGKの心理戦になります。
もしも試合中、惜しいフリーキックを一回ニアサイドへ蹴っていた場合、相手GKは同じコースへの警戒が強くなるので、そのコースをねらっている様子を見せながら裏をかいてファーサイドへ蹴るなど、いろいろな駆け引きを仕掛けてみましょう。
GKに迷いを与えれば、ボールへの反応は鈍ります。キッカー有利の状況に持ち込むことができるでしょう。
■GKの目線をさえぎる
GKの反応を鈍らせる方法はまだまだあります。
GKは壁に立っている選手の足のすき間からボールをのぞいているので、そのボールが見えなくなるように、相手の壁の前に味方をしゃがませて、壁のすき間を埋めます。
ボールが見えなくなると、ボールの軌道を確認するのが遅れるので、GKはかなりイヤがります。もしも、その状況をイヤがったGKが横に移動して、ボールが見えるポジションを取った場合、ゴールの逆側を大きく空けることになります。
このようなすきを発見したら見逃さずにフリーキックを蹴り込みましょう。ゴールが決まる確率は大きく上がるはずです。
■相手の壁の"すき"を見る
ニアサイドのシュートコースは相手が壁を作って遮断しているため、前回紹介したようなカーブボールなどの変化する球質のボールを蹴らなければ、ゴールの枠に収めることは難しくなります。
しかし、相手チームによっては、この壁の作り方にすきが生まれるケースも多々あります。たとえば壁の位置がズレていて。シュートコースが空いていたり、あるいは背の低い選手が壁の中に入っていたり、このような相手のイージーなミスを発見した場合、それを容赦なく突くべきです。
さらにありがちなのは、壁の中に入った相手選手がボールを怖がって、体を横向きにしたり、足を上げたりして、壁の中にボールが通るすき間を作ってしまうケースです。
そういう壁の弱いところへシュートを打てば、相手の体に当たったボールがそのままコースを変えてゴールに向かう可能性が高くなります。壁に跳ね返るなどの軌道を予測できないボールは、GKが防ぐのも非常に難しいため。有効になります。
■壁をかわして打つ
「ニアサイドをねらいたいけど、カーブやスライダーを蹴ることができない」
「さらに相手の壁もしっかり整えられていて、すきがない」
という場合はどうすればいいのか?
こんなときは下図のようにボールを一度ズラして壁をかわし、味方に打たせるという選択肢を考えておくといいでしょう。
ただし、Aが一度ボールにタッチすることで、壁の中から相手選手が飛び出してくるでしょう。その選手にシュートブロックされないようにするには、最初はAがシュートするフリをしてボールを出すなど、ボールを出すタイミングにフェイントを入れたほうが良いでしょう。
さらに相手の壁から選手が飛び出してきたとき、相手の壁がバラバラに割れるので、あえてニアサイド側の低いコースをねらってBがシュートを打つのも面白い選択肢です。このようなサインプレーのアイデアは、無限に考えることができます。
■セカンドボールに走り込む
フリーキックに限ったことではありませんが、シュートをGKがはじいたこぼれ球、すなわちセカンドボールに対して詰める意識は非常に重要です。
キッカーがゴールの隅をねらって蹴った場合、味方選手は図のようにボールがこぼれそうな場所をある程度予測して走り込みましょう。
あるいは、意図的にこぼれ球を詰める作戦を立てるのも面白いでしょう。たとえばキッカーが髪の毛を触ってから助走したらニアサイドへ蹴るなど、チーム内でシュートコースのサインを決めておき、実際にキッカーが蹴ったらみんなで一斉にニアサイドへ詰めるなど、セカンドボールの詰め方を工夫することもできます。
■ゴールの確率を少しでも高めるために
フリーキックに限ったことではありませんが、このような数々の工夫を凝らして、ゴールの確率を少しでも高めようとする姿勢は非常に大切です。本田圭佑、香川真司、長友佑都といった選手たちは、なぜ世界の舞台で活躍できているのでしょうか?
それは、彼らが常に、勝つ可能性を高めるために何が必要かを考えて、それがどんなに細かいことでも徹底的にこだわり、自分のできることを全力でやろうとしているからです。フリーキックひとつに、どこまでこだわることができるか。ぜひ、チャレンジしてみてください。
清水英斗(しみず・ひでと)//
フリーのサッカークリエイター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富でライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。プレーヤー目線で試合を切り取ることを得意とし、著書は、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』『サッカー守備DF&GK練習メニュー100』『サイドアタッカー』 『セットプレー戦術120』など多数。
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文/清水英斗、写真/サカイク編集部(ダノンネーションズカップ2011より)