ヴィッセル神戸ユースの監督として、Jユースカップで優勝。現在は姫路獨協大学でサッカー部の監督を務める昌子力(しょうじちから)さん。息子の昌子源(しょうじげん)選手は、鹿島アントラーズのセンターバックでもあります。各年代での指導を経験し、兵庫県サッカー協会の技術委員会委員長や、コーチ養成講習会インストラクターなどを務める育成のスペシャリストに少年サッカー(ジュニア年代)で身につけなければいけない技術をお聞きしました。
■"キック力"と"視野の広さ"が比例する?
――これまでの指導の中でジュニア年代で必要と感じる技術は?
「大学で少年サッカー(ジュニア年代)向けのスクールとかを指導していて思うのはボールが蹴れない選手が多いですね。ちゃんと思っている所に蹴れないというのは、パスミスしているということです。だからという訳ではないけれど自分の得意技としてドリブルを仕掛けるのですが、実際には何人も抜けるわけじゃありません。意図したところへボールを運ぶと言う点ではパスもドリブルも掛かる時間の差はあれ大切な技術。どちらも十分な反復練習が大切だと思います。
サッカーの試合で起こりうる様々な場面を思い起こすとドリブルにも負けないくらいキックの場面は出てきます。ドリブル練習にかなりの時間をかけて行ってもミスが起こるのにキック練習をしていなかったらもっとミスは起こるわけです。実際、キック練習が不足しているためかお互いミスの応酬という試合はかなり多いですよね。
同時にパスをしっかり通すためには視野を確保する必要があります。そのために "顔を上げろ"とか"周りを見ろ"となるのですが、上の年代に進むにつれ、よりプレスがきつくなり、密集度が高まるので、奪ってからでは顔をあげる余裕がないし、遅いんです」
――しっかり周りを観るためには?
「プレーを分解分析してみると選手がボールを奪いに行く際に忘れてはいけないことがると思うんです。つまりボールを奪いながら"ボールを奪ったら何をするか"というイメージを持っておくことです。 "ボールを奪ったらパスを出す"というプレーがちゃんとできる選手はボールを奪った後にパスの出し所を見つけるのではなく、プレッシャーをかけに行く前に周りを見みていて、奪ってすぐに"あぁなんかこの辺に味方いたな"とか、"遠いサイドにもう一人味方がいたな"というイメージを持っているんです。ボールを奪ったらその情報を頼りにもう一度パッと顔をあげて、パーンと蹴れる、はたける力がいると思います」
――どうすれば視野が広がるのでしょうか。
「必要なのはキック力ですね。キック力とは長いボールを正確に蹴る力。キック力と視野の広さは比例すると思います。キック力がないと、"あぁ、あそこにおったなぁ。でも、あそこに俺は届かないわ"となって、遠くの場所が選択肢から消えるんですよ。そしたら、近いとこしか蹴らなくなる。それを繰り返していったら観ようとする範囲・視野が狭くなるわけです。逆にボールが良く蹴れる選手は自分が蹴れる(パスが届く)範囲まで目が届くようになるんです。
つまり顔を上げようとするようになるか、顔を上げなくなってしまうかを左右するのがジュニア年代のキック技術というわけです。最初はただ遠くへ蹴る練習でも良いと思うので、蹴る力を疎かにしないことが必要です。」
■ロングボールを否定するのではなく、意図を理解させる
――"キック力"を身につけるために必要なものとは?
「少年サッカーは11人制から8人制に変わり、その分スペースが出来ました。そのスペースへ意図を持ったドリブルやフリーランをさせるのが狙いの一つですが、そのスペースを使うために昔のように意図されないロングボール(キック&ラッシュ戦法)が再び増える可能性もあります。ここは指導者が間違えてはいけない重要な指導ポイントです。 "遠くへ蹴る"ということを繰り返し訓練させて身につけるだけでなく、"なぜ、ロングボールを蹴るのか"という意図を理解させる必要があります。
サッカーは相反するものの組み合わせのスポーツです。縦と横、前と後、右と左、緩と急、狭いと広い、ドリブルとパス・・・。そのためにも、実戦の中でキックを必要とするシチュエーションをある程度作ってあげて、チャレンジさせて覚えさせることも重要。日ごろの練習で指導者がしっかり教えなければ、いくら試合で学ぶといっても、効率が悪いでしょうし、間違った覚え方をする可能性もあります。練習と試合という2つのシチュエーションで"蹴る"を学ぶことが大事です」
――最近はボールを蹴る技術が見落とされている気もします。
「うちのスクールでも若いコーチはドリブルの練習ばかりさせることが多く、"しっかり蹴る練習も必要だぞ"と説明します。昔からロングボールを蹴ると、"蹴るな!もっと大事にして繋げ!"ってジュニア年代で教えたりするでしょ?もちろん、その方がいいと思うんですけど、ロングボールを完全に否定してしまったら、選手の視野を狭めてしまう、もしくは視野が広がる年代が遅れていくんです。僕が今、見ている大学年代でも蹴れない選手はもう癖がついてしまって苦労しています。だから、そういう訓練がジュニア年代や中学校の低学年で必要じゃないかなと。視野が広がれば周囲を見られるようになるので、ドリブルにも生きてくると思います」
――視野が広がるメリットは攻撃の選手だけなんでしょうか?
「(息子の)源は小学校の頃からロングキックがびしっと蹴れていたんです。あいつを唯一、誉めるとしたら、そういうキックの面。高校2年生からDFになったんですがそれからもサイドチェンジのロングキックであったり、ライナーのFKを決めたりしていたんです。そういう面は守備でも生きてきます。奪う前に色んな部分を広く見れているので、落ち着いて慌てないんです。もちろんバックパスを受けた時も慌てない。源が"持った時にパニックにならない"と評されるのは"キック力"から来る部分があるんじゃないかと思いますね。ただ、我が子の話なんで何を言っても説得力ないですよね。親馬鹿やなと(笑)」
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昌子力//
しょうじ・ちから
大阪体育大学卒業後の1986年に神戸FCのスクールコーチに就任。育成年代の各カテゴリーで指導を行う。1995年にヴィッセル神戸に移籍、1999年にヴィッセル神戸ユースの監督に就任すると、その年のJユースカップでいきなり優勝を果たしチームの礎を築いた。現在は姫路獨協大学のサッカー部監督としてだけでなく、准教授としても教壇に立つ他、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチを歴任した後、兵庫県サッカー協会の技術委員会委員長を始め、指導者養成講習会インストラクターなど"指導者の指導者"を務める。
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取材・文/森田将義、写真/森田将義、サカイク編集部(ダノンネーションズカップ2012より)