ボールを持っていない状態(オフザボール)の選手が、正しいポジションに着いて次のプレーの準備をすることを『ポジショニング』と呼びます。
サッカーは90分間の試合中に両チーム合わせて22人の選手がピッチ内を走り回ります。その1試合の中で、1人の選手がボールに触っている時間はどんなにうまい選手でもわずか5分程度。残りの85分間、つまり試合のほとんどの時間はオフザボールの状態でサッカーをしていることになります。
その85分間に、各選手がどれだけ正しいポジションを取り続けることができるか。それがチームの質を左右します。
ドリブルやパスやシュートなどボールを持っているときのプレーは、うまい選手と下手な選手が一目瞭然です。それに比べるとポジショニングのうまさは、素人にはなかなか分かりづらく、地味で目立たないものかもしれません。しかしサッカーでは、瞬間的なポジショニングが1メートルずれていることで致命的な失点を喫してしまったり、あるいは逆に正しいポジショニングができたことで決定的な得点を挙げたりすることも、往々にして起こり得ます。ボールを持っていない選手のポジショニングを意識し始めたとき、サッカーのレベルが一段上がるでしょう。
では、どのようなポジショニングが正しいと言えるのか。そのセオリーをGK編、DF編、MF編、FW編の全4回に分けて解説したいと思います。
■攻撃時の起点となる、ゴールキーパーのポジショニングとは?
現代サッカーでは、GKは攻撃における最初のプレーヤーと考えられており、パス回しにも積極的に参加するチームが増えています。特に有名なのはバルセロナのGKビクトル・バルデスでしょうか。彼はフィールドプレーヤーと同じくらいスムーズにパス回しに参加できるほどの技術を持ったGKです。
10人でパスを回すよりも、GKを含めて11人でパスを回したほうがやりやすいのは当然でしょう。仮にDFが3人でパスを回している局面を、GK1人+DF2人で行うようにすれば、余った1人のDFを中盤へ上げて攻撃時の数的優位を作ることができます。
このようにGKがパス回しに参加することは確実なメリットを生みます。しかし、このときGKは「自分がミスをしたらそれをカバーする選手はいない」ということを頭に入れておく必要があります。
味方からのパスを、もしもGKがトラップミスをした場合、そのままオウンゴールになってしまう危険性があります。そのため、GKがパス回しに参加するときは、味方からのパスコースの延長線上にゴールの枠を置かないように、少しゴールの左右や前方にポジショニングをずらしてパスを受けるようにします。そうすれば、仮にトラップミスしてボールをそらしても、最悪、相手にコーナーキックを与えるだけで済みます。
もちろん、試合の中ではそのようなポジショニングができない局面もあるので、その場合はゴールを背負っていることを認識し、より注意深くボールコントロールしましょう。
■守備時は素早くポジショニングを修正し、動きを止めて構えを作っておくことが大事
GKの守備時のポジショニングの基本は、ボールとゴールの中心を結んだ線上に立つこと。そして線上のどの位置に立つのか。すなわちボールとの距離も大切になります。
GKはループシュートを打たれたときに頭上を越えないように、下がって対応できる距離、あるいは1対1の場合には逆に間合いを詰めてシュートコースを狭めることができる距離を意識してポジショニングする必要があります。
そして、GKはボールが動くたびに、細かくポジショニングを修正しなければいけません。例えば下の写真のようにボールが右サイド側へ出た場合…、
そのまま立っていると、ニアサイドのシュートコースががら空きになってしまいます。そこでGKはポジショニングを修正します。
ボールの移動に合わせて、GKもボールとゴールの中心を結んだ線上に移動します。GKはボールが動くたびに、常にこのようなポジショニングの修正をしなければいけません。
大切なことは、素早くポジショニングを修正し、相手がシュートを打つ瞬間にはきちんと動きを止めて構えを作っていること。もし、移動中にバランスが流れたままでシュートを打たれると、逆サイドにシュートされた場合に反応できず、成すすべなく失点してしまうからです。
レアル・マドリードのカシージャスは、このようなポジショニングが非常に優れたGKです。素早く移動し、シュートストップする構えもきちんと作っています。彼のようなポジショニングの良いGKに対しては、相手も難しいコースに強いシュートを打たなければ入らないため、枠を外れるシュートが多くなります。
たとえファインセーブがなくても、このような相手にシュートミスを誘発するポジショニングができる選手こそ、優れたGKであると言えるでしょう。しかし、それを理解できていなければ、派手なファインセーブをするGKばかりを評価してしまうかもしれません。
ボールのないところで、GKがどのようなポジショニングを行っているのか。ぜひ、注視してみてください。
清水英斗(しみず・ひでと)//
フリーのサッカークリエイター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富でライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。プレーヤー目線で試合を切り取ることを得意とし、著書は、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』『サッカー守備DF&GK練習メニュー100』『サイドアタッカー』 『セットプレー戦術120』など多数。
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文/清水英斗 写真/松岡健三郎・サカイク編集部(2012全日本少年サッカー大会より) 出典/サッカーDF&GK練習メニュー100