現役時代はセンターバックとして、日本代表やジュビロ磐田で活躍した田中誠さん。前回は田中さん直伝のポジショニングについて教わりました。今回もその続きとして、リスクマネージメントなど、ディフェンスのアドバイスをお送りします。
考えるディフェンスを実践すると、相手とのスピードや体格の差を埋めることもできますが、さらにコツがわかってくると、だんだんディフェンスそのものが楽しくなってくるものだと、田中さんは語ってくれました。
取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部
■リスクマネージメントでポジショニングが変わる
まずは、ディフェンスの大切な考え方である“リスクマネージメント”について聞きました。
「守備をする味方に対して1人カバーをつけよう、というのはリスクマネージメントの基本ですね。なかなか最終ラインを1対1だけで守ろうとする人もいないので、たとえば相手FWが1人であれば最低2人は必要で、相手FWが2人残っていたら3人は必要となります。必ず守備に関しては1人余らせるのがセオリーだと思います」
サッカーは11人と11人で行うスポーツなので、最終ラインで1人余らせて数的優位を作ればそのぶん、たとえば前線では相手のセンターバック2人をFWが1人で追いかけなければならないなど、他の場所が数的不利になります。そうやってピッチ上のバランスを調整することで、失点の危険を減らすのがリスクマネージメントです。
その方法にはチームによってさまざまなやり方があると、田中さんは言います。
「たとえば、攻められているボールサイドとは逆サイドの選手が下がってリスクマネージメントするとしたら、まずはどこに戻るのか。バイタルエリア(センターバックとボランチの間のスペース)の辺りがいちばん危ないから、真ん中に戻ってこいという約束事があったり、その辺りはチームによって違うと思います。真ん中に帰ってくるのなら、そこに守備の人数がいるので、サイドから中にボールを誘い込めば奪いやすくなります。逆に、サイドに守備の厚みがあるのなら、中を切って逆サイド側へ行かせないようにすれば、そのまま同サイドで縦に深いところまで進ませてしまうかもしれないけど、サイドはゴールからは遠い場所なのでリスクは少ないですよね。そこに追い込んでから、ボールを奪うという約束事なのか。それは状況や、監督の指示によって変わってくると思います。
逆サイドの選手が下がってリスクマネージメントをするのは基本の一つだけど、今の現代サッカーだと、けっこう両サイドが同時に上がって、外に張るようなチームもあります。ただ、個人的に言えば、僕はあまりそのスタンスは好きじゃなくて。逆サイドなら中央に対するリスクマネージメントに残って、危なかったらそのままカバーに行けるし、自分のサイドにボールが出てきそうなら、そのときにサイドに出て行けばいい。僕の場合はプロに入ってからそういうふうに教えてもらったんですけど、ただ、今は世界中で、はじめから両サイドに張っているサッカーが多いので、その辺りもチームによって違うし、リスクマネージメントを意識するポジションも変わってくると思います」
重要なことは、チームのリスクマネージメントがどのような約束事になっているのかを理解し、それに応じてボールを追い込む方向など、選手同士の狙いを合わせていくことになります。
「あとは試合中にボールを奪って、そこから積極的に上がり過ぎたことで、逆にボールを奪われてカウンターを食らった場面があったとします。でも、それを行ったこと自体がリスクマネージメントとして間違っていたのか、それとも受け方やパスが悪くてミスが起きたことが問題なのか。
そういうポイントをハッキリさせずに、“取られたら危ないじゃないか!”という指導をしたら、ボールがマイボールでも一切攻められないチームになってしまいますよね。そういうところで指導の使い分けができないと、リスクマネージメントばかりで、前へ行くタイミングも作れなくなります。
たとえば積極的に出て行くといっても、相手のペナルティーエリアくらいまでみんなが行き過ぎると、ボールを奪われた後にカウンターを食らいやすくなるので、上がる人数を考えつつ、ボールを先に追い越さないように、ボールの後ろから出て行く“ビハインドボール”とか、そういう基本の動作を教えておくとか。基準が必要になりますよね」
■ボールを奪う成功体験を繰り返そう
もしかすると、小学生くらいのうちは、守備をやらされるものだと考えて、あまり意欲的に取り組めない子どももいるかもしれません。“守備の楽しさ”について、田中さんは次のように語ります。
「小学生のレベルだと、相手がミスをしてくれるからボールを奪える、というような感覚だと思うんですよ。もちろん、中には1対1で競り合って取れたというシーンもあると思うんですけど。相手がうまくなればなるほどミスをしてくれなくなるし、そこで壁に当たると思います。だから、ただ相手のミスを待つような守備をするんじゃなくて、どうすれば自分たちがボールを奪えるのかを、意図的に考えてみる。相手が何もミスをしていないのに、ディフェンスのねらいでボールを誘い込んで奪えたりしたら、だんだん楽しくなってくると思います」
田中さんは、そういう成功体験を積み重ねることが成長には必要であると言います。
「僕もそうでした。はじめは僕も、小学生のときはFWをやっていて、中学くらいからディフェンスをやり始めて、自分の予測した通りに味方に指示を出して、追い込んでいけば、こんなに簡単にボールを奪えるんだと、そういう成功体験があったので。点を取る喜びもそうですけど、ボールを考えて奪うようなプレーが、中学や高校では楽しいと思いましたね。
コーチに言われたことに対して、考えてプレーできるかできないかというのも、子どもの能力が関わってくると思います。自分自身がコーチに言われたことに対して、やれるか、やれないか、その判断を全部コーチに任せるようではサッカー選手とは言えない。そこも自分で理解するというのが成長する秘訣だと思うので。ただ何となくやるんじゃなくて、指導者に言われたことをやってみて、できたこと、できなかったことを整理して、できるようにする作業が出来る子どもは、毎日成長すると思います」
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取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部