■香川真司との違い
ジャマイカ戦では武藤選手が左ウイング、香川選手が左のインサイドハーフでプレーしました。香川選手と武藤選手はともにアグレッシブで高い技術を持った選手ですが、特徴的なプレーには違いがあります。香川選手は周囲との連携の中で、ゴールを目指すプレーを得意とします。ゴール前の選手が密集したスペースに飛び込んでいき、ワンタッチ、ツータッチでボールをさばきながら、貪欲にシュートを狙っていきます。周囲とのコンビネーションで生きる選手です。
武藤選手は縦への推進力、突破力があり、個人で局面を打開できる選手です。それが彼のタレント性です。武藤選手のプレーを見るときは、彼の個人技に注目してみてください。1対1で相手を抜くときの技術や、ボールを運ぶドリブルのテクニックは日本の中でも屈指のレベルにあります。ドリブル時は両足を高いレベルで使うことができるので、どうやって相手を抜いているのか、どういう足の動かし方、体の使い方をしているのか。そして、ボールをブロックするときに腕をどう使っているのかといった、駆け引きの部分にも目を向けると良いと思います。
■競争を勝ち抜くためのインテリジェンス
武藤選手も前回の記事で取り上げた柴崎選手も、ゆくゆくはヨーロッパでプレーすることになるでしょう。スペインのリーガ・エスパニューラを始め、海外のトップリーグで活躍するために必要なのが適応力です。文化や言語、気候など日本とは大きく異なります。そしてヨーロッパのトップリーグでは、つねに厳しい競争下に置かれます。スペイン語で「コンペティティブ(競争的)」というのですが、試合に出るための競争があり、試合に出て結果を残せるか? という面でも競争があります。結果を残さなければ、チームにいられなくなります。競争の激しさは日本以上でしょう。そこで闘争心を出せるか、自分を表現できるか、戦えるか。それが一番のポイントになります。その環境にいることが経験になり、選手個人だけでなく、日本サッカーにとっても大きな財産になると思います。
そして、チームに適応するためにも、サッカーインテリジェンス(戦術理解)は欠かすことができません。適切な状況判断やチーム戦術の理解などのインテリジェンスは、子どものころからの積み上げが重要です。大人になって突然新しいチームに入り、「理解しろ」と言われても難しいものです。たとえば、子どものころから別の国の言語を習っていれば、身に付けることは簡単です。しかし、20歳を過ぎていきなり新しい言葉を覚えろと言われても、理解するのに時間がかかります。サッカーの戦術理解も同じことです。理解のベースがない状態で、いきなりスペインに行っても適応することができません。小学生、中学生のレベルを理解していないのに、大学の授業を受けるようなものです。
そうならないためにも、育成年代のうちからサッカーを理解するためのトレーニングをすること。そういった選手が育つために、まずコーチがサッカーを理解すること。それをもとにサッカーに取り組めるかどうかで、選手が受けるトレーニングの内容が変わり、指導を受けた選手のプレーの引き出しの数も変わります。状況判断やサッカーに対する理解力は、日本の選手がこれから伸ばしていきたい部分です。日本の選手はテクニック、持久力、スピードの面で優れています。
日本人選手の特徴を活かすためにも、サッカーに対する理解やインテリジェンスを高めることが、今後、日本サッカーをさらなる高みに導いていくためのポイントになるでしょう。
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MVPはバルセロナに招待し、現地クラブチームでのトレーニングに参加。現在関東で展開中のサッカーサービススクールで指導を行うポールコーチに加え、スペインから来日のサッカーサービスコーチ陣が、ジュニア世代に必要なプレー判断の基準となる個人戦術を、たった数日で徹底トレーニング。
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取材・文 鈴木智之 写真 Getty images