■GKの7つの原則
(1)最適なポジションと距離
(2)バランス
(3)タイミングの良い準備
(4)正しい初動
(5)速く、アクティブにボールに向かう
(6)恐怖心をなくす
(7)冷静な思考力
――ひとつずつ教えて下さい。(1)の『最適なポジションと距離』とは、どのようなことでしょうか?
ポジションと距離は、GKにとって重要な項目のひとつです。良いポジションをとっていれば、相手はシュートを打ちにくいと感じます。ブラジルW杯の決勝戦で、メッシとノイアーの1対1の場面を思い出してみてください。メッシのシュートはわずかにゴールを外れましたが、それはノイアーのポジショニングが良かったからです。メッシからすれば、シュートコースがなかったのではないでしょうか。GKにとって大切なのは、ボール保持者に対する最適なポジションと距離をみつけることだと考えています。
――最適なポジションとは、どのような立ち位置ですか?
GKのポジションは、ボールの位置、ボール保持者、味方DFの状況によって変わります。ジュニア年代で最初に教えるのは「ゴールの中心とボールを結んだ線上に立つこと」です。他にも、線上から少し外れて立つケースもあるのですが、ジュニアの導入段階としては、まずは「ボールとゴールの中心を結んだ線上に立つこと」から始めるのが良いと思います。
――7つの原則の(2)『バランス』とは、どのようなことでしょうか?
失点シーンで見られるのが、どちらかの足にバランスが偏った状態で構えてしまい、逆サイドにシュートを打たれる場面です。重心が左右に偏らないように、良いバランスで立つようにします。ブラジルW杯のシーンを例に出すと、決勝戦でのゲッツェのゴールに対する、ロメロの対応が挙げられると思います。もし、ロメロがバランスよく立っていれば、あの決勝ゴールは防げたかもしれません。 GKは走る、跳ぶ、蹴る、倒れる、起き上がるなど、多くの動作が求められるポジションです。その動作を無駄なくスタートをするためには、相手の状況に影響されずにバランスよく立つ能力が求められます。そのためには全般的なコーディネーション能力が重要で、それは年齢が低ければ低いほど、身に付けることが容易になります。コーディネーションのトレーニングとしては、マット運動やボール遊び、バランスパッドを使ったり、片足ジャンプなどを行います。
――たしかに、GKはフィールドプレイヤー以上にコーディネーション能力が求められますね。シュートをセーブした後に倒れて、すぐに起き上がって次のプレーに移るといった動作は、GKならではかもしれません。
そうですね。とくに起き上がり方は重要です。スムーズに起き上がることができると、次のプレーに移りやすくなります。GKは倒れたら倒れたままというわけではなく、起き上がる動きとがセットになるので、倒れ方と起き上がり方を同じぐらいトレーニングすることが大切だと思います。
――7つの原則の(3)『タイミングの良い準備』とは、どのようなものでしょうか?
プレーの前提として、相手がシュートを打ってきたときに、素早く的確に対応するための準備が必要になります。相手がシュートを打つ直前に立つべきポジションに移動し、右足を出すときはどれぐらい身体を沈ませるのか、どうやってタイミングを取るのかなど準備をします。考えて動いていてはシュートのスピードに間に合わないので、トレーニングで繰り返すことで無意識にできるようにします。そして、ジャンプやフロントダイビング、キャッチングなどのプレーの実行をします。すべてのプレーを実行する直前の動き、それが準備です。
川原氏によると「ジュニア年代の導入期において、意識すべきことは3段階に分けられる」という。ステップAが(1)最適なポジションと距離、(2)バランス、(3)タイミングの良い準備。ステップBは(4)正しい初動、(5)速く、アクティブにボールに向かうこと。そしてステップCが(6)恐怖心をなくす、(7)冷静な思考力といったメンタル面だ。後編ではステップBとCについて、お届けする。
川原元樹(かわはら・もとき)
大学卒業後ドイツに渡り、ケルン体育大学に通いながら、GKとして6部リーグでプレー。指導者転向後は、GKコーチとして名高いトーマス・シュリーク氏のもと、アルミニア・ビーレフェルトで育成からトップまで指導を行う。ハノーファー96ではU17のGKコーチ、酒井宏樹の通訳としてトップチームに帯同。VFBシュツットガルト、バイヤー・レバークーゼン、TSGホッフェンハイム、シャルケなどの育成チームで研修を積んだ後、2013年より松本山雅FCアカデミーのGKコーチに就任。ケルン体育大学の卒論のテーマは「ブンデスリーガ・アカデミーのGK練習の考察」。
取材・文/鈴木智之 Photo by MSC Academy U12 Green/田川秀之