まさに"選手育成工場"とでも呼ぶべき、スター選手の多い名門・クルゼイロ。指導テーマもそのものズバリで世界で活躍できる選手の育成を掲げている。世界トップレベルを育成し続けるクルゼイロとは、一体どのような考えの元に実行されているのだろうか?
■プロになれる可能性が"11倍"に拡がる方法とは!?
トップチーム(プロクラブの一軍チーム)とは、一人ひとりに与えられる「ポジションのスペシャリスト」の集団で構成されている。
例えばボランチ(中盤のポジション)の選手であれば、味方へパスをテンポ良く配球しゲームメイキングを行う。サイドの選手であれば、タイミング良くオーバーラップを行い攻撃にアクセントをつけるなど、自身のポジションの役割を完璧こなさなければならない。
しかし当然のことながら、スペシャリストになる前にプロ選手になることが前提。そのためにも、プロになる可能性を広げなければならない。
クルゼイロでは、日本でいうジュニア年代にあたる子どもに対し、決してポジションを固定しない。敢えてさまざまなポジションでプレーをさせる。その理由はいたってシンプル。プロになる可能性を広げるためだ。どのポジションで芽が出るかもわからないうちに、わざわざポテンシャルを潰す必要はない。11箇所すべてのポジションをマスターできれば、試合に出られる可能性も11倍──とはいえ、11箇所すべてのポジションをマスターすることは現実的に難しいだろう。それでも2〜3ポジションをプレーすることができれば、選手がトップチームでプレーできる可能性は広がる。
日本のジュニアチームのコーチは「君は身長か高いからDF(ディフェンス)、君は足が速いからFW(フォワード)」といった理由でポジションを固定するケースがよくある。たしかに、幼いころからポジションを固定してしまうと、選手のプレーの"幅"を奪う危険性がある。だからこそ子どもたちにさまざまなポジションを経験させて、どのポジションでも対応できる選手の育成が重要となるように思う。
■子どもが苦手なヘディングはリフティングボールで克服
クルゼイロのトレーニングはとにかく基礎を徹底する。それも、ただ基本的な技術を練習するだけでなく“克服する”まで繰り返し行うのが特徴だ。
たとえば、子どもたちが苦手としている技術のひとつに「ヘディング」が上げられる。ボールが顔面へ接近してくる恐怖心が一つの原因だからだ。子どもが「ボールが当たっても痛くない」ことを、自身の身体で体験しなければ上達は遅くなる。
ある日、クルゼイロジャポンのコーチが日本人スタッフにこんな申し出をした。「リフティング用のボールを人数分用意してほしい」。日本人スタッフがなぜかと質問すると「子どもたちはヘディングをするときにボールを怖がっている。まずは柔らかくて小さいそのボールで恐怖心を消し去る必要があるからだ」と答えた。できない原因に対して真摯に向き合い、解決のためのアイディアを出す。
基礎ができなければ応用はできないことは頭ではわかっていても、苦手なものを置き去りにして応用編に進んでしまうことはよくある。たとえば料理。しっかりと出汁のとれていないお味噌汁や煮物は、どんな具材を入れようと決しておいしくならない。サッカーでも同じことが言える。基礎技術がなければ決していいプレーはできない。クルゼイロでは基礎技術をしっかり習得させることに多くの時間を割くことが大きな特徴だといえる。その結果、技術面がしっかり固められているので、戦術のトレーニングでも余裕をもって理解に集中することができるのだ。
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