■チビが生きるための道は、武器を磨き続けること

大前が中３でセレクションを受けにきた時、本田監督にこう言われたという。

 

「お前、玉田（圭司・現セレッソ大阪所属。本田監督が習志野高校を指導していたときの教え子）みたいだな」。

 

正確なボールコントロール、鋭いアジリティーと得点力。ここにフィジカルと工夫を積み重ねる日々が始まった。

 

「中学まではフェイントだけで抜けていたけど、高校になるとそうはいかない。タイミングで抜くように工夫した。流経大柏に来て、体の使い方を意識するようになったし、相手の立ち位置を見て、左に重心を置いていたら左に仕掛けるとか意識しながら、１対１の練習をたくさんやった」

 

小さい体をフルに生かし、重心を低く保ち、相手の間合いの開け閉めと、細かいステップワーク、そして相手をしっかりと見る目を織り込むことで、ドリブルに瞬間的な緩急を入れることを身につけた。そして身体を当てられても倒れることなく、ゴールに突き進む力も身につけた。

 

さらに「ドリブルにこだわっていては、上では通用しないことに気づいたんです。交わしきらないでも、ワンフェイントやワンステップの早いタイミングで打つことを意識するようになった」と、彼は練習や試合で交わしきらないで、DFのタイミングをずらしてから打つことを実践し続けた。

 

最初は失敗の連続でゴールが入らないときもあったが、「これができれば、絶対にプロでも通用する」（大前）という揺ぎない気持ちがあったからこそ、彼はどれだけ失敗しようとも信念を曲げることはなかった。すると、いつの間にかミドルシュートが彼の大きな武器になっていた。

 

こうした武器を手にしたことで、天性の才能もさらに生きるようになった。ドリブル、アジリティーと言う武器が磨かれることで、比例して得点力という武器も磨かれる。

 

高３になると、『高校ナンバーワンFW』として注目を集め、インターハイ、高円宮杯全日本ユース、高校選手権の３大大会において、すべて得点王を獲得するという、史上初となる偉業を成すまでに成長した。

 

その後、鳴り物入りで清水エスパルスに入団したが、すんなりと活躍できるような甘い世界ではなかった。プロ入り２年間でリーグ２試合出場、得点ゼロ。そこで、高校時代から実践してきた取り組みを、さらに進化させて毎日のトレーニングに励んだ。

 

「プロは当然、高校とはまったく違う。ならば高校でやってきたことをよりストイックに、ハイレベルにやらないといけない」。

 

小さかったら高く飛べ。これを信じて、彼はより自分の武器を磨き上げた。そしてプロ３年目で出番を掴むと、翌2011、2012年は絶対的エースとして活躍。２年間でリーグ21ゴールを叩き出した。2013年１月から2014年5月まで、ドイツのフォルトナ・デュッセルドルフでプレーし、ブンデスリーグデビューも果たしたが、怪我に泣かされノーゴールに終わった。しかし、清水に復帰すると、怪我も癒え、再び清水のエースストライカーとして活躍。今季は開幕戦で圧巻の２ゴールを決めるなど、変わらぬ活躍を見せている。

 

鹿島との開幕戦でのゴール。この２ゴールは彼の努力の証が詰まったゴールだった。１点目は高い位置で味方がボールを奪った瞬間に、相手DFの死角に入り、フリーになると、スルーパスを受ける前から相手GKの位置を見て、ゴールのイメージを持っていた。パスが届くと、右足アウトサイドでシュートが打てるポイントにボールをおき、GKのタイミングをずらして、ゴールの隅に右足インフロントで流し込んだ。これは予測と冷静さ、正確なボールコントロールがもたらした。

 

さらに２点目はマイナスのパスを、ペナルティーエリア外、左斜め45度の位置から、迷うこと無く右足一閃。弾丸ライナーがゴール右上隅に突き刺さった。これは２人がシュートコースに入ろうとしており、もしワントラップをしていたら、絶対に入ることは無かった。そこを迷いなくトップスピードから思い切り右足を振り抜き、ふかすこと無く、弾丸ライナーでゴールに突き刺す。これこそ彼が高校時代からコツコツと身につけた「交わしきらないでも、ワンフェイントやワンステップの早いタイミングで打つことを意識するようになった」ことの賜物だった。

 

「これができれば、絶対にプロでも通用する」。

 

そう信じていたことが、現実に現れた瞬間でもあった。

 

大前元紀。「小さかったら高く飛べ」を実践し続ける彼こそ、日本の子どもたちが見習うべき、あるべき姿の一つではないだろうか。

 

 

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