■20歳のメッシはできなかった状況判断
メッシはこのような状況を判断したうえでのパスを20歳の頃には出せなかったと思います。その頃のメッシは、自分の持っている技術を存分に生かしたドリブルをプレーの最優先の判断にしていたからです。ボールを受けたらまずドリブルで相手を抜くことも考えていたので、その分、不要なファールを受け、ケガも絶えませんでした。ただし、時間をかけて選手として成長する間に、いつドリブルが使えるシーンなのか、そしてゲームの状況はどうなのか、という状況を認識して判断する力を伸ばしていくことができたのだと思います。現在のメッシは、この試合のプレーでもわかるように、ドリブルという最強の武器を持ちながらも、常に周りの状況をしっかりと確認し、ゲームをしっかり理解できる選手だといえます。この試合でメッシは結果的にゴールを決めませんでしたが、1点目のシーンはメッシの精度の高いパスから生まれたゴールですし、2点目はメッシが相手を交わしてシュートを打つ、という正確な技術から生まれたゴール(メッシのシュートのこぼれ球をスアレスが押し込んだ)でもあります。
さらにいえば、この試合はユベントスが同点ゴールを決めて、さらに高い位置からプレスをかけてバルサがプレーをしづらい状況を作り出す時間帯がありましたが、そういう苦しい時間帯でも常に最初に解決策を提示していたのがメッシだったのです。チームに溜めが必要なときに溜めをつくる、あるいは、チームがリズムを変えないといけないときにはリズムを変えていたのがメッシでした。特に今季は、メッシの成長が見られたシーズンとなりましたが、より完成された素晴らしい選手になったと感じています。それが可能となった背景には様々な理由があると思いますが、一つは、今季のバルサは、バルサのサッカーをよく知っているルイス・エンリケが就任したということです。彼は、昨季まで難しい状況にあったバルサに様々な戦術的な解決策を提示しました。そこにスアレスなど新たな選手たちが加入するなかで様々なオプションが生まれ、スタイルとしてもポゼッションとカウンターの両面を併せ持つチームになりました。そのなかでメッシは戦術的な理解度をさらに深めていったのだと思います。
メッシは、バルサが従来得意とするボールポゼッションを保つときにも力を発揮できるし、攻守の切り替えを見極める力も持っていることを証明しました。さらにいえば、メッシの精神面も昨季に比べて安定したことが成長した要因に挙げられると思います。昨季は家族のことだったり、ブラジルW杯があったりと、頭のなかで考えるべきことがたくさんあったはずです。それでも40得点以上も結果を残してはいるのですが、今季はそういったことが解決し、より精神面でも安定したなかでプレーできたことで、ゴール以外の様々なパフォーマンスが向上したのだと感じます。そういう背景や、チーム事情、監督の志向というものが、彼の成長を助けた側面は多いにあると思います。
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取材・構成 鈴木康浩 写真 Getty images