■ゴールが子どもに心の貯金を持たせる
――シュートは白黒はっきりつくので、コーチも親も選手がミスしたらいろんなことを言いたくなってしまいます。
長谷川 よく考えてください。サッカーで1点がどんなに重たいか。私はシュート一本で選手としての降格も昇格も味わい、アジアのクラブではゴールを決めたら未払いの給料が支払われた経験もしました。サッカー選手にとって、ゴールは人生を変えるほど大きなものなのです。ゴールは大きな仕事だから決めたらホメてあげてほしいですし、外れても周囲は我慢強く見守ってあげてほしい。そして、子どもたちにはアドバイスを送り続けてほしいです。ゴールは人生でその瞬間しか得られないものです。ボールを奪うことも運ぶこともドリブルもパスも、すべてはゴールのためです。だから、私は選手たちにゴールを意識してプレーすることを伝えたいと考えました。余談ですが、ストライカーコーチというポジションを確立し、Jのクラブなど日本にそういう専門職が指導することを一般化できたらと思っています。南米にはそれがあるそうです。私は日本でそのモデルケース第一号を目指しています。
――南米には得点を奪うためのコーチがいるんですね。一つ話は戻るのですが、今やシュートを打つ時間が短いのは世界共通の課題です。先ほど、間接視野でコースを見つけるということを言われていました。その点についてもう少し詳しく教えていただけますか?
長谷川 顔を上げてゴールを見れば、重心が上がります。すると、目線をボールに戻し、シュートを打つまでに0コンマ何秒か遅くなります。そういう意味でも間接視野でゴールを見た方がGKの反応速度は遅れるから得点の確率が上がります。これを知っているかどうかで得点できる可能性は大きく変わります。私は選手にこういう材料を与えたいのです。そこから先は、自由にそれを料理してほしい。ゴールという料理の完成品は個々で異なるからそれぞれの選手によってもレシピが異なるのです。しかし、それぞれがオリジナルです。
――多くのコーチたちは「基本的にゴールを確認して、ボールを見てシュートを打て」と教えます。
長谷川 基本的な形で打たれたシュートはGKも対応しやすいでしょう。要するに、シュートはほんの少しリズムを変えるだけで簡単に入る場合も多々あります。顔を上げず、間接視野でゴールを見てシュートを放つだけで一つ間がなくなり、リズムが変わります。最近は、ドリブルでリズムを変えるとボールをとりにくいと言われるようになりましたが、シュートも同じです。トン・トン・ドーンだったのが、トン・ドーンになるだけで反応が難しくなります。
――元Jリーガーならではの説得力のある説明ですね。
長谷川 FWは時間がない中でプレーすることが求められます。だから、決断を含めて、いかに早くプレーするかが大事です。だから、ゴール前になればなるほどFW主体でパスを出す必要があるのです。それには、FWがもっと意思表示をしなければなりません。右足にボールがほしいのに、左足にボールが来たらシュートが遅くなり、チャンスがつぶれます。FWの要求がパス供給側に共有されていれば得点につながる確率も上がります。シュートはイメージの共有も大事だし、その蓄積も大事です。もしパスを出せなかったとしてもイメージが伝わるので、それは前進です。FWがイメージを伝えなければ、コーチも自分のシュート・イメージでその局面を処理し、説明してしまいます。
――コーチの経験則によるシュートイメージと子どものシュートイメージは異なるかもしれません。
長谷川 子どもは納得できなければストレスしか溜まりません。シュートとは少し離れますが、私はジュニア年代の選手たちが学ぶためには“心の貯金”が必要だと思っています。その貯金が少なくなればなるほど思い切りのいいプレーはできない。チャレンジして失敗したとしても本質的にプレーが間違っていなければ「今のはよかった。次は決めよう」と挑戦を後押しし、次に成功したら「ナイス、ゴール!」と褒める。そうすれば、ゴールほど心に大きな貯金を作ってくれるものはありません。もっとゴールを決めたい。そんな感情が大きくなるはずです。
■ゴールを見ることが敵への威圧感、冷静な決断を生む
――ゴールを意識してプレーするためにはどうすればいいでしょうか?
長谷川 簡単です。つねにゴールを見ながらプレーすればいいのです。そうすると、相手からのプレッシャーのかけ方が予測しやすいのでミスも減らせるし、シュートも落ち着いて打てるはずです。それにはゴールが見える位置にポジションをとることが大切。そうすればDFもコワいはずです。後ろや横にポジションをずらせばいいのです。
――後ろや横ですか。確かに前に動くと、ゴール前では選手の密集度が高くなるので見えなくなります。プル・アウェイとか、ダイアゴナルの動きとかが大事なのはそのことが理由なんですね。
長谷川 言葉ばかりが先行しているので、その理由が理解されていないことも多いですよね。ペナルティエリア内のスペースの使い方も似ています。相手よりもシュートを打てるスペースに早くから入ってしまうとDFはコワくないし、対応しやすいんです。目的がはっきりしているから。でも、相手の見えるところに一度動いて、シュートが打てるスペースに走り込むと、気づくのが遅れるから後手に回ります。それにゴール前ではDFは必ずボールを確認しなければならいないからFWが横に動いたり、自分から離れて動くことがコワいのです。だから、ゴールが見える位置や相手が見える位置にポジションをとりながらプレーした方が得をすることが多い。
――すべてはゴールを意識したプレーですからね。
長谷川 そうなんです。私の練習はシュートから順番に行います。例えば、次のような流れです。シュート、ゴールを見てシュート、ドリブルシュート、ワンツーからのシュート……という順番でトレーニングをします。
練習はゴールからの逆算で行なうものであり、意識付けが先ですから単純なシュート練習が一番先になります。踏み込みであったり、ステップであったり、テニスボールでボールの捉え方を学んだり、これらはシュート技術の要素を細分化したトレーニングです。テニスボールで言えば、あの練習は膝の位置によってボールが浮く角度が変わることを学んでほしい。ボールから膝の位置が少し後方にずれるだけでテニスボールは大きくゴールバーの上を越えてしまいます。そういうことを感覚的に養ってほしいのです。
【テニスボールをつかったシュート練習】
【別アングル】
――だいぶ改善されていますが、今でも「踏み込みはボールの真横に拳が入る距離に!」と個々で股下も膝下の長さも異なるのに、このことを目安としてではなく、基本として伝えているコーチもいます。
長谷川 私が感覚的に養ってほしいと伝えているのは、そういうこともあります。最低限、インサイドやインステップなど蹴り方の原理がわかっていれば十分です。その上で右利きなら体の方向を右ゴールポストに向けて右隅にも左隅にも蹴ることができるように準備しておいてほしいんです。ひねって蹴ることが基本だからそこさえ意識しておけば、GKの状況によってボールのどこを蹴ればどう飛ぶ、足の角度をどうすればどのコースにボールが飛ぶのか、経験値として身につけられるからです。だから、これからも元JリーガーのFWとして実戦の中で身につけたシュートの技術や戦術を伝え続けたいと思っています。
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