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テクニック

対面パスなどのドリルトレーニングよりもゲーム練習を行った方が実戦で「止める」技術を正確に実行できる

公開:2020年6月 5日 更新:2020年6月10日

キーワード:コーチングトラップトレーニング指導止める練習メニュー

COACH UNITEDに出演した動画と記事(『 「止める」「蹴る」を確実にできる選手を育てるには?』)が多くの反響を呼び、それをもとに制作したDVD「トラップ新指導論~サッカーをうまくする「止める」技術の教え方~」を発売した内藤清志氏。

長年、技術と戦術の融合にこだわって指導してきた内藤氏に聞く「止める」の極意。インタビュー3回目は「ボールを止める」を個人戦術からグループ戦術、チーム戦術と発展させるための方法について話を聞いた。

※COACH UNITEDからの転載記事です。

「トラップ新指導論」の
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ボールを受ける時は「いつ・どこで」もらうのかを事前にイメージする

――プレッシャーを受けている状況でボールを止める時に、ファーストコントロールでボールを動かす場面もあります。ボールを止める時と、動かす時の違いはどう考えていますか?

内藤:ボールを止めようとした時に、相手選手が奪いに来ているのであれば、ファーストコントロールで動かすことも必要です。そのトレーニングもDVDに収録されています。そこでのポイントは、ボールを止めるのではなく、身体とボールとの関係性を維持したまま動かすことです。ボールが足元から離れないようにコントロールすることが、止める、動かす、その両方で重要なことです。これはぜひトレーニングで意識してほしいのですが、そもそもはなぜプレッシャーを受けている状態でボールを受けることになったのかを考えてください。自分とパスの出し手との間でタイミングの共有ができていれば、マークしている相手チームの選手より先に動き出したりして、優位な状態でボールを受けることができます。ボールを受けるための準備は、常にし続けてほしいと思います。

――そこで、周囲を観ることが重要になるわけですね。

内藤:はい。「ボールを受ける前に何も考えてなかったので、ボールに触る瞬間に相手に気づいてしまった」ということや、「相手が近くにいるので、動かさなければいけない」といったこともあります。また、相手チームの選手の存在が意識できていたので、相手と逆の矢印を作った瞬間にボールを欲しかったんだけど、パスを出す側がそれに気づいておらず、相手が同じ矢印になった時にボールが出てきてしまうこともあります。

そうなると、ボールを受ける時に同じ場所を相手と共有してしまうので、自分は別の場所に行かなければいけない。そこで、ボールを動かすという流れです。

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――トレーニングをする時に気をつけることはなんでしょうか?

内藤:子どもたちに、目的を持たせることだと思います。フォーカスポイントを変えずに、練習メニューを変えてみたり、その逆でもいいと思います。相手がいるトレーニングであれば、1人称(自分だけで解決できる技能的課題)、2人称(味方とのタイミングを意識させる課題)、3人称(相手との駆け引きがある課題)にこだわらせることもできます。そのためにも、ゲーム(試合形式)のトレーニングをやったほうがいいと思います。ボールを止める練習をするからといって、対面パスを30分やるのではなく(笑)。

子どもは、楽しくなければ続きません。ゲーム(試合)の中にすべてがあります。試合は3人称ですよね。自分がいて、味方がいて、相手がいます。相手のレベルが上がれば、壁にぶつかります。ミスをすると、ごまかせなくなります。"止める"にしても、教えると言うよりも、子どもが得意そうに不安もなくやっているのであれば、少し高いレベルの相手と試合をして、不安を刺激する。そうすると、いつもやっていることがうまくいかない。そこで「どうしてうまくいかないのだろう?」と、原因を自分で考えるようになると、成長のサイクルに乗っていきます。自信と不安のバランスに注目すると良いと思います。

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「止める」動作は相手を攻略しゴールを奪う目的を達成するための手段

――ボールを"止める"ことへより意識が向くと、チーム内で共通理解が生まれます。結果として、チーム力アップにつながるのではないでしょうか?

内藤:そうなんです。「あの選手は、ここにボールを止めたということは、ここへパスが来るな」と予測が立つようになり、それが戦術へとつながっていきます。「味方がボールを止めた時に動き出す」というのが共通認識としてあれば、相手チームの選手が止まっている状態で動くことができますよね。それだけで、相手と違うリズムができますし、プレーの主導権を握ることができます。パスの出し手と受け手のタイミングが合わなかったのか、それとも出し手の"止める"にミスがあったのか。そこも見分けやすいし、トレーニングで選手に求めやすくなります。

プロに行くような選手は、そこから特異性が出てくるので、わざと普段とは違う位置にボールを止めて、相手をおびき寄せておいて、逆サイドに蹴るなど、ボールを蹴り分けるようになっていきます。

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――その部分は個人戦術であり、グループ戦術でもあるということですね。

内藤:パスを出すタイミング、受けるタイミングが理解できると、サッカーをより理解できるようになると思います。パスの出し手、受け手の意思疎通ができると、相手チームの選手が前に来ているのであれば、そのタイミングで相手の背後を狙ったりと、プレーが自分とボールの関係から、相手との関係や、相手チーム(複数の選手)というように、1人称、2人称、3人称と変化していきます。DVDでも説明していますが、「ボールを止める」というと、一人称だけで完結してしまっていることが多いように思います。例えば、単調なパス&コントロールの練習をさせてしまい、子どもは飽きてしまうんです。

――たしかに、"止める"は個人技術というイメージが強いので、単調な練習になりがちです。

内藤:極端に言うと、三人称のトレーニングから入ってもいいと思います。相手がいる中で、"止める"にフォーカスして練習を始めてみる。選手にフォーカスさせるというよりも指導者がその部分で注意深く選手を観察するということです。サッカーの目的は、ボールを止めることではなく、相手を攻略してゴールを決めることです。"止める"は、そのために必要な手段なので、ボールがうまく止まらなくても、プレーが成功することもあります。相手と逆の矢印が見えていれば、足元からボールが1メートル離れていても、時間差があるのでマイボールにできます。

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でも、相手との距離が近かったり、相手の方がスピードがある場合だと、足元からボールが離れると、奪われてしまう。試合形式という3人称から入り、「この"止める"のレベルだと難しいよね。足元から50センチ離れると、取られちゃうよね」と気づかせて、トレーニングを2人称、1人称と落とし込んでいくこともできます。そこは指導者の工夫次第です。

――ドリブルやキック、シュートなどは、体格差も含めて個人差がありますが、"止める"に関しては、それほど体格や成長スピードによる個人差はありません。だからこそ、チームで取り組むことで、ある一定のレベルに引き上げることが可能で、それが結果としてチーム力の向上にもつながりそうです。

おっしゃるとおりで、私がコーチをしている時に、勝ち負けは関係なく、試合が面白いと言ってくださったり、ギャラリーが集まることがありました。止める、蹴るは、やればやるだけ技能的なレベルは上がっていきます。野球の素振りと一緒で、繰り返しトレーニングを積み重ねていくことで上達していきます。チーム力をある一定の所にそろえていく作業が、"ボールを止める"なんです。とくにジュニア年代など、サッカー選手としての土台を作る年代で身につけておくと、年齢が上がるにつれて、とても有利になると思います。(第4回に続く)

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内藤清志(ないとう・きよし)
筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、筑波大学蹴球部でヘッドコーチなどを長く歴任。谷口彰悟や車屋紳太郎など日本代表選手を指導。その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。

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取材・文 鈴木智之

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