テクニック
ボールを奪われないための身体の使い方/香川真司を輩出したFCみやぎバルセロナの個人戦術の強化方法2
公開:2021年2月19日 更新:2021年2月25日
サッカーはゴールを奪い、ゴールを守るスポーツだ。そのためには、相手からボールを奪い、奪ったボールを守る必要がある。身体を使ったボールキープ、フィジカルコンタクトに負けない身のこなしなど、ジュニア年代で身につけておきたい要素は多岐に渡る。
今回のサッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』では、以前、出演してもらい好評を得た、FCみやぎバルセロナの石垣博監督に「ジュニア年代で身につけておきたいスキルと個人戦術」というテーマでトレーニングを実演してもらった。前編は「コンタクトスキル(ボールキープ)のトレーニング」にフォーカスし、ボールを奪う、ボールを奪われないための身体の使い方を紹介したい。(文・鈴木智之)
(※COACH UNITED 2020年8月24日掲載記事より転載)
試合で主導権を握るためには個人がボールを奪われないことが大切
ジュニア年代の試合において、球際の競り合いで積極的なプレーをうながす声掛けを聞くことがある。しかし、どのようにコンタクトすればよいのかを習っていない、知らない選手は多い。
石垣監督は「サッカーには、どの年代においても接触プレーは必要です」と前置きをし、次のように続ける。
「しかし『体を当てろ』というコーチングだけでは、選手の理解には繋がりません。どのような段階を経て、選手に意識させるべきかを指導することが大切です。個人がボールをキープする技術を身につければ、試合で主導権を握りながら、優位に進めることができます」
最初のトレーニングはウォーミングアップを兼ねた「軸ずらし」から。これは、身体を当てることに慣れさせるためのトレーニングで、2人1組になり、1人がラインの上を歩き、外側にいるもう1人が身体を当てて、ライン上にいる選手をラインの外へ押し出す。それを歩きながら交互に繰り返し、進んでいく。
石垣監督は「相手に身体を当てて、自分の軸をライン上に持っていこう。そのとき、手で押しても相手は動かないので、身体の横をぶつけよう。手から行かないように」と実演していく。
発展編としては、「せーの」の合図でタイミングをあわせてぶつかり、互いに軸をずらされないように耐えるパターンがある。このときも、ひじや手からぶつからず、体の側面を当てることを意識したい。
ウォーミングアップが終わったところで「1対1のボールキープ」に移行。2人1組で、1人がボールを持ってドリブルし、もう1人が後方から追いかける。
ここで石垣監督が強調したのが「相手が来ていない方の足で、ボールをコントロールする」こと。ボールを保持している選手はドリブルでまっすぐ進み、相手が後方の左右どちらかから来ているのかを感じ、ボールを触る足を変えて運んでいく。
1対1の発展編としては「せーの」と互いに声を合わせて、タイミングをあわせてぶつかる方法がある。このとき、ボールを持っていない選手が、ボールを持っている選手に対して後ろから当たるとファウルになるので、横からぶつかることを心がけたい。
また、斜め下に重心を移動させて相手にぶつかると、強いコンタクトができるので、繰り返し行って、感覚を身につけることがポイントだ。
ボールをキープする時は相手に身体の横を向けることを意識する
3つ目のトレーニングは「パス交換→ボールキープ」。2人1組でインサイドを使った対面パスをし、コーチの合図でボールキープに入る。ここでのポイントは、できるだけボールを動かさず、その場に置いた状態で相手とボールの間に身体を入れてボールを守ること。
ボールキープ時に、ボールを足で触った状態で相手に押されると、バランスを崩してしまう。そのため、できるだけボールに触らずに身体を入れて耐え、相手が足を出してきたら、必要に応じてボールに触り、相手から遠いところへ逃げて行く。
発展編としては「スタート」の合図で、互いに身体をぶつけ合う方法がある。このとき、ボールを保持している選手は、手を使って(伸ばして)、相手を触り、どこから来そうかを確認すること。
また、相手に背中を向けた状態でボールをキープすると、押されてバランスを崩し、不利な体勢になると同時に、相手とボールとの距離も近くなり、足を伸ばせば届いてしまうので、身体の横を向けて当てることを意識したい。
キープの際はプレスをかけてくる相手から遠い方の足にボールを置く
ここまで、身体の当て方、ボールの守り方にフォーカスしてトレーニングしたところで、「1対1(4ゴール)」を行い、実戦に近い形でトライしていく。
「1対1(4ゴール)」では、相手の状況を見て、どちらの足でボールを持つのか、どこにボールを置くのか、どのゴールを目指すのかといった、認知と判断も重要になってくる。技術面はこれまでのトレーニングで取り組んできたポイントを中心に「どっちの足でボールに触る?」「いつ身体を当てる?」などの声掛けを通じて、選手に思い出させるとともに、適切なプレーを導いていく。
判断に関して、石垣監督は「DFがボールを奪うチャンスはいつ?」と質問をし、選手が「相手が背を向けたとき」と答えると、「そうだね。その瞬間がチャンスだから身体を当てよう」とレクチャーするとともに、「攻撃側は身体をしっかりと当てて耐えて、相手から遠いところにボールを置こう」と、具体的にアドバイスをしていく。
ほかにも「相手が背後から来ているときにターンしようとすると、ぶつかってしまう。ボールをキープして、良い状態を作ってターンをすれば、相手にぶつからない」など、わかりやすいコーチングと実演が行われているので、ぜひ動画で確認してほしい。
前編の最後は「2対2(4ゴール)」で締めくくり。ドリブル&キープだけでなく、パスの要素も入ってくる。指導ポイントに対するフォーカスの仕方、説明の簡潔さなど、参考になるコーチングが多数収録されているので「ボールをキープするための身体の使い方」だけでなく、トレーニングオーガナイズのお手本にもなるだろう。
後編では「ゴール前のパス、シュートの判断力を養うトレーニング」をお届けしたい。
【講師】石垣博/
18歳から指導に携わりスポーツ少年団での監督、宮城県のU-12年代の地区トレセン・県トレセンなどでも監督を務める。ジュニアユース年代ではFC FRESCAでの監督経験を経て、2005年より現在のFCみやぎバルセロナの監督に就任し15年目を迎える(2011年からは女子チームも立ち上げる)。また、宮城県サッカー協会 指導部 サブチーフインストラクター(47FA C級D級インストラクター)も務めている。