優秀な指導者からは、指導の極意や哲学を学ぶことができます。ここでは、そんな監督たちの言葉を見ていきながら、「子どもたちの指導」について考えていきます。
第四回目も東京ヴェルディユースの楠瀬監督に学びます。
■方向性を示して待つ
2010年のクラブユース選手権で優勝した、東京ヴェルディユース。チームを率いる楠瀬直木監督は、就任1年目でクラブユース選手権の優勝を勝ち取りました。
ヴェルディはユース年代の全国的な強豪です。しかし、ここ数年はタイトルから遠ざかっていました。そこで楠瀬監督は「優勝するチームってどんなチームだろう?」と、選手たちに問いかけたそうです。
「優勝するチームの選手は脱いだスリッパをぐしゃぐしゃに置かないだろうし、あいさつもきちんとするだろうと。たとえば、マンチェスター・ユナイテッドの若い選手たちは、試合のときはスーツにネクタイを締めて、受け答えもしっかりしています。そういうのを見ると、うちの選手はまだまだだという感じがするので、まずは風格や品位を身につけようと。そこをおろそかにして、グラウンドで『質を上げよう』なんてことは言えないですよね」
オン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチはつながっていると、楠瀬監督は言います。指導者としては「スリッパをきちんとそろえよう」「あいさつをしよう」と、できていない場面を見ると、ついつい言いたくなるもの。しかし、そこでグッとこらえるそうです。
「僕は『待ち』の指導です。こちらから攻めると、『スリッパを並べなさい』『ゴミが散らかっているぞ』と、全部言わないといけなくなる。スリッパをそろえられる選手は、落ちているゴミは拾うでしょう。サッカーも同じで、一つひとつがていねいにできるようになると、マークのずれを発見したら自分が修正したり、人のミスをカバーするようになる。そこで『マーク修正!』『カバーリング!』と全部言うと、四六時中言わないといけなくなります。ゴミを拾う、スリッパを並べる。それができれば、グラウンドの中でも規律ができて、仲間の間でルールになっていくんです」
自分の考えを押し付けるのではなく、方向性を示して待つ。楠瀬監督はこうして、ピッチ内外に規律をもたらし、優勝という栄誉を勝ち取りました。育成年代の指導には様々なアプローチがあります。楠瀬監督の『待ち』の手法も、選手を伸ばすための有効な指導法と言えるのではないでしょうか。
Photo//Kenzaburo Matsuoka