考える力
【サッカー用語解説】アディショナルタイム(ロスタイム)とは? サッカーで使われる言葉の意味や違いを解説
公開:2013年7月17日 更新:2024年6月28日
■たかが言葉? 前向きなチャレンジに変換できるチャンス!
ロスタイムがアディショナルタイムになることで変わったことはあるでしょうか?
観戦者としては「ロスタイム? いまはアディショナルタイムっていうんだよ?」という豆知識が得られたという程度のことでしょう。しかし、子どもたちにアディショナルタイムを浸透させることの影響はどうでしょうか。
サッカーに限らずスポーツの世界では「ポジティブシンキング」が前向きなチャレンジを生むことがよく知られています。試合終了間際に「もう時間ないぞー」と声をかけるのか「あと2分はあるぞー」と声をかけるのか。アディショナルタイムはまさに加えられた時間、90分から新たに加わったボーナスタイム! という前向きなニュアンスがあります。実際にはプレー時間が増えることはなく、考え方の違いでしかありませんが、子どもたちにロスタイムの説明、試合中の時間の使い方の説明をするときにはぜひ「アディショナルタイム」を使ってあげてください。
冒頭の「ロスタイムはあと3分です」というフレーズですが、ピッチの外にいる第4の審判が残り時間の目安を掲示するようになったのは、実はそう昔のことではありません。当たり前の光景になりすぎてそれ以前にサッカーを観ていたのに忘れている人もいるかもしれませんが、正式に採用されたのは日本が初めて本大会出場を果たした1998年のフランスW杯からです。
■もう一度考えよう 残り時間の戦い方
この時期に採用されたことにも時間に関する面白い話があります。フランスの前のW杯は当時"サッカー不毛の地"と言われていたアメリカで開催されました。気温、天候の問題、スタジアムの問題、サッカーが根付いているとは言いがたいアメリカでのW杯は現在でも決して評価の高い大会ではありませんが、サッカーがさらに世界的に普及していくためにはスポーツ大国アメリカの開拓は不可欠なものでした。アメリカW杯でアメリカ国民から不評だったのが、サッカーの時間管理システムでした。
アメリカンスポーツはバスケットボールを見てもわかるように、全体の試合時間が掲示され、そこから減っていく「カウントダウン方式」です。プレーが止まれば時計も止まり、あと何秒試合時間が残されているのかが一目瞭然です。翻ってみると当時のサッカーは主審だけが時計を管理していて、いつ試合が終わるかは主審にしかわかりません。
負傷後退もあったはずなのに、まったく時間を取らずに笛が吹かれたり、何事もなくスムーズに運んだはずなのになかなか笛が吹かれなかったり。これを見たサッカーに不慣れなアメリカ人の多くは「サッカーはプレータイムに主審が手心を加える不公平なゲーム」という声を挙げたのです。
実際にその後アメリカで発足したMLS(メジャーリーグサッカー)では"カウントダウン方式"が採用され、時間管理と並んで不評だったPK戦に変わる「シュートアウト」を新設して、わかりやすさ、公正さを前面に出していきました。
少し話が逸れましたが、とにかく、アメリカの声を受けて次のフランスW杯から採用されたのがロスタイムの目安の掲示だったのです。
"カウントダウン方式"で行われるアメリカンスポーツは時間に敏感で、残り時間に応じた作戦や、タイムマネジメントが相当研究されています。バスケットボールにおける、残り時間1秒から逆転するためだけのフォーメーションや、残り時間を守り切るための戦術には特に目を瞠るものがあります。
サッカーにはサッカーの歴史があり、時間に対する概念も独特のものでいいとは思います。しかし、その歴史の多くで残り時間が曖昧だったため残り時間の過ごし方のパターンが受動的なような気もします。目安の時間まで残り3分「よし、コーナーフラッグ付近でキープ」。これは本当に正しいのでしょうか?
ロスタイムではなく、アディショナルタイム。「あと3分しかない」ではなく、「3分プレーする時間が増えた」。結果だけがすべてではない子どもたちのサッカーこそ、ポジティブシンキングで前向きなチャレンジをしてほしいと思います。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/田川秀之(JA全農杯チビリンピック2013全国決勝大会より)