■球際の激しさはトレーニングで培うもの
多くのイングランド人は球際に対して、並々ならぬ文化、ポリシーを持っています。具体的には、相手より先に触るために、相手選手との距離感に気を使う他、相手に先に触られてもボールを奪い返すためにタックルを仕掛けようという文化です。例えば、イングランドのチェルシー・レディースに所属する大儀見優季は、イングランドの球際についてこう述べています。
「寄せ方(距離感)が上手いです。すごく嫌なタイミングで(自分に)寄ってくる。タックルの文化も感じます。他のチームとやった時、やっぱり相手選手は危険を察知すると構わずにタックルにくる。(以前プレーしていた)ドイツよりも、その文化を感じますね」
また、現在イングランドのクイーンズ パーク レンジャーズのアカデミーの責任者であるリチャード・アレン氏も、小学生年代の子どもたちに球際を厳しくプレーするように指導していました。
(リチャード・アレン氏は、NPO法人ハートリンクプロジェクトの主催のイベント、ワールドサッカークリニックサマーキャンプ2013のために来日)
たとえば、相手選手とゴールに背を向けた状態でこぼれ球を拾いにいくシーンを想定したトレーニングでは
- まず、ボールに先に触ること
- ボールに触るタイミングが同時なら、身体のぶつかり合いで負けないようにすること
- もし先に触られたらすぐに守りの体制に入る。そして近づきすぎない。距離間に気をつける
- 半身の体勢で一つの方向にプレーを限定する
- 足を出してつつくタイミングを考える
- 抜かれそうになったらスライディングタックルを仕掛ける
と、球際の攻防に関してきっちりと小学生にコーチングしていました。これらのコーチングをしっかりと行えば、小学生でも、相手との距離感や、体のぶつけ方、ぶつけてボールを奪う方法、タックルの仕方、タックルのタイミングなどを覚えることができるでしょう。日本で、ここまで球際に関してしっかりと指導する指導者は、少ないのではないでしょうか?
前述のように、球際の激しさが足りないと言われている日本ですが、大儀見選手は、「意識すれば絶対に改善できる部分」とも語ります。やるかやられるかの球際の攻防を育成年代から意識させることは、日本が世界と戦うために取り掛かるべき課題です。
取材・文/内藤秀明 Photo by Tom Markham