海外の指導者に日本の印象を聞くと、「選手のレベルは高い」「日本ほど指導者が勉強している国はない」という声は少なくありません。しかし、少なからず今回のワールドカップでも感じられた『世界との差』は、どこにあるのでしょうか?
今回は、イングランド、オランダ、ドイツなど様々な国で指導者として活躍し、国内でも横浜F・マリノスやFC東京など豊富な指導経験を持つ平野淳さん(ファンルーツアカデミー代表)にインタビューを行いました。
■"サッカーの本質"を捉えた欧州のトレーニング
インタビューの冒頭、平野さんに「日本の育成年代に足りていないものは?」との質問をぶつけると真っ先にこんな答えが返ってきました。
「日本の育成年代に一番足りないのは国際経験だと思います。おそらく日本人の選手個々のタレント性や、指導のノウハウは世界的にみても優れています。ただ、欧州は、たとえば、ドイツは30分圏内にオランダやベルギーがあって、飛行機に2時間乗ればスペインにも行ける。国際大会もカテゴリーを問わず色々とある。そういう環境が日本人には足りていません。
それを補おうと日本の子どもたちが海外遠征をすると、現地のプレーの感覚にようやく合ってきた頃に帰国しなくてはならない、というパターンがほとんど。そのプレーの感覚の違いというのは、単純にいえば、ゴールへの意識と球際の強さ。特に、球際の強さは海外遠征を経験した日本人の選手たちが口を揃えるところです」
現在、欧州の育成現場を牽引しているのはオランダだと平野さんはいいます。
かつてバルセロナはオランダのアヤックスから育成手法を学びました。いま、若手が台頭するなど育成面でも成功しているドイツも、オランダ協会と提携するなど積極的に学んでいるのです。
「欧州の育成メソッドのベースはオランダにあります。そのオランダ流のトレーニングにはゲームをキーワードに置いており、その中で『ゴールを奪う』、『ゴールを守る』という要素が大前提として念頭に置かれている。それらの要素が、サッカーの本質の部分だと捉えられているからです」
そう平野さんは強調します。
「ところが、日本の指導現場では、サッカーの本質を見失い、ある技術的な一部分を切り取った指導をしているケースがしばしばあります。私がドイツや日本で一緒に仕事をしている元1.FCケルンの育成部長クラウス・パブストも同じことを指摘していました。
もちろん、指導者によって差はあるし、日本にも素晴らしい指導をされている指導者はたくさんいます。欧州に比べて日本が劣っているという言い方はあまりしたくありませんが、たとえば、日本ではインサイドキックの指導を細かく切り取りすぎてしまうようなケースも見受けられるのは事実。『しっかり面をつくって』『蹴るときの足の角度はこう』という"細かすぎる指導"です。
欧州にもマニュアルに偏った指導をする指導者はたくさんいるので、すべてを肯定するつもりもありませんが、欧州では、インサイドキックの技術を細かく指導することよりも、やはり、ゴールを奪う、守るといったサッカーの本質の部分を念頭に置いて指導することが大事だと考えられているのです」
たとえば、2人1組の対面パスの練習を行うにも"サッカーの本質的な部分"は意識されています。
「『2秒以内』『2タッチ』などというルールが設けられることもあります。実際のゲームではパスを受けてから考えている時間はありません。そこには『できるだけ早いリズムで相手にボールを返そう』という意図があり、受けたボールを2秒以内に相手に返すとなれば、ファーストタッチは必ず良いところにコントロールしなければなりません。
さらにパスを出す相手のことも考えないとパス交換のリズムが崩れてしまう。単純な対面パスの練習にプラスαの要素を入れることで実践を意識させているのです」
取材・文 杜乃伍真 写真 okebaja、ING Nederland