■その短期的な視点が子どもの可能性を奪っている
相手に勝った、負けた。「あのチームより強いはずなのに」「審判の判定が」「なんでうちの子は交代させられた」・・・・・・。さらに自分のチームの子と比べて「一生懸命にやっていない」「うまくならない」と、どんどん“比べる気持ち”が出てきてしまうようです。
「あの子はリフティングが50回もできるのにうちの子は10回しかできない」
そんな風に嘆くより「5回しかできなかったリフティングが10回できるようになった」「できなかったプレーができるようになった」そんなわが子の成長を認めることの方が重要だと塚田さんは言います。
「勝つことに集中しているチームでは、チームの中でどうだとか試合に時に役立つかどうかで子どもたちを判断してしまいがちです。これは指導者も保護者もそうですね。保護者のみなさんは誰かと比べるのではなく、一度冷静になってわが子の成長を見てあげて欲しいですね」
セレッソ大阪時代にはU-18(高校生年代)チームの監督や育成アドバイザーとして下部組織の礎を築いた塚田さん。そのときから指導者の人格形成、保護者の子どもたちへの関わり方には心を砕いていたそうです。
「技術や戦術を教えることも大切ですが、セレッソの育成の形を整えるためにはまずは指導者の質が何より大切だと考えていました。当時は指導者講習会も頻繁に行い、子どもたちへの接し方について理解を深めるようにしていました」
香川真司選手や柿谷曜一朗選手、山口蛍選手など日本代表選手を生んだセレッソの育成、今年の全少でも見事優勝を遂げた背景にはこうした哲学が息づいているのです。
「お父さん、お母さんには『試合の勝ち負け』『誰かとの比較での勝ち負け』にとらわれず、子どもたちの成長を見守り、いろいろなことを共有してあげて欲しいと思います。子どもたちは本当に楽しくサッカーができているか? その表情をよく見てあげることが大切でしょう。試合に勝つこと自体は子どもにとってもうれしいことですが、子どもたちの勝利の喜びより親や指導者の満足感が勝っているようだと危険です。自分たちでは気がつきにくいことですが『誰が満足しているの?』という目線はいつも心に留めておいて欲しいことですね」
塚田さんは「プレーするのは子どもたち。プレイヤーズファーストは本当に大切なことです」と繰り返します。
勝利が目的になってしまえばプロセスを省略してしまう。子どもたちの判断や“ミスをする機会”を奪って安易に勝てそうな戦術を採る。こうした目先を追うサッカーでは、結局“真の勝利”はつかめません。
主役はあくまでも子どもたち。未来ある子どもたちの目線に立てば本当に必要なことは自然と見えてくるはずです。
次回は変革のときを迎えるジュニア年代のサッカーで、本当に大切なこと、将来につながる教え方について詳しくお話をお聞きします。
塚田雄二
主な指導実績
日本サッカー協会指導者養成インストラクター
ヴァンフォーレ甲府監督(1995~2000)
セレッソ大阪ヘッドコーチ・監督(2002~2003)
セレッソ大阪育成統括アドバイザー(2005)
セレッソ大阪監督(2006)
U-20日本代表アグリバンクカップ監督(2004)
Uスポーツクラブ代表
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部c